しかし、金正恩体制が成立してからの4年間を見渡すと、金正恩第1書記は指導者としての実績を着実に積み重ねてきた。国内各地を視察し、いたるところで指示を出し、それを実行させたことが報じられている。
経済建設の重視は、核兵器と並ぶ両輪と位置付けられており、実際、まだ部分的ではあるが、経済水準は向上している。北朝鮮はそれなりに経済建設に力を入れているのだ。
とくに、金正恩第1書記を脅かす可能性があるとして取りざたされていた軍については、金正恩は他国ではありえないほど激しい人事異動を行ない、若返りを実現した。北朝鮮の安定に軍が重要な役割を担うことは明らかであり、金正恩と軍との関係は今後も注意が必要だが、今のところ金正恩の軍に対するコントロールは強化されていると見るべきだ。
朝鮮労働党創設70年記念に際して中朝両国が関係改善の方向に向かい始めたのは、中国側の努力もあったが、北朝鮮の指導者としての金正恩の権威確立が進んだことが重要な要因だったと思われる。
米国との関係改善は体制維持にかかわる一大事
米国に対して平和条約の交渉を提案したことも新しい対外政策の反映だ。北朝鮮と中国はしょせん仲間であり、修復不可能な程度にまで関係が悪くなることはまずない。
しかし、米国は北朝鮮の現体制を抹殺してしまう力を持つ脅威だ。米国から見ればそのような認識はないだろうが、北朝鮮から見ればそのように映る。両者の間には大きな認識のギャップがある。今は、停戦が成立しているので、小康状態にあるが、北朝鮮にとって米国との関係改善は体制維持にかかわる一大事だ。
10月初めの国連総会演説で、リ・スヨン外相は、米国との間で平和条約を結ぶための対話を行なう用意があると発言した。さらにそれから数日後の7日、北朝鮮外務省報道官は、労働党創建70周年記念日(10日)を3日後に控えた7日、朝鮮戦争の停戦協定を廃棄して平和条約を締結することを米国に提案した。
ただし、今回の提案が米朝関係の改善につながる保証があるわけではない。北朝鮮は過去何回も類似の提案を行なったことがある。内容的には、今回の提案がこれまでと異なるとは思えないが、金正恩第1書記があたらしい指導者としての権威をもって提案したことは新しい要素だ。
一方、北朝鮮に米国との関係改善を進める用意が本当にあるか、疑いたくなる要因も残っている。北朝鮮はミサイルや核実験をやめたわけでない。韓国に対する砲撃などもしなくなった保証はない。
しかし、北朝鮮のさらなる孤立化を防ぎ、関係を改善しなければならない国際社会の側にも問題がある。とくに米国の姿勢だ。米国はグローバルパワーとして世界各地で戦争を行っており、北朝鮮だけに注力できない、北朝鮮を囲む韓国、中国、ロシア、それに日本で北朝鮮の問題を解決してほしいというのが歴代米政権の方針で、北朝鮮が直接の交渉を提案してきても単独では応じなかった。
米国のみならず、我が国など西側諸国としてもこのような米国の事情は理解できるが、北朝鮮との関係を打開するのにこれまでのように中国の影響力と六者協議に依存するだけでは新しい展望は開けてこないだろう。そもそも、北朝鮮からの平和条約提案は米国にしか扱えないものだ。今後、米国が北朝鮮との関係に積極的に臨むことを期待するしかない。
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