いびつなラグビー人気はすぐ終焉しかねない セルジオ越後、「未熟な報道」の弊害を語る

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――スター選手を作り上げ、その選手ばかりを取り上げている、と。

五郎丸が『ラグビーにはヒーローはいない、チームみんながヒーロー』と言っているのに、日本のメディアは彼ばかりを取り上げる。スター選手をもてはやすことに躍起になっている。そうしてブームを作り出し、その熱が冷めてきたり、その競技が負けたりすると、サッと手を引く。まさに、なでしこがそう。ワールドカップで2大会続けて決勝進出という快挙を成し遂げたのに、報道量が極端に少なくなった。

競技の魅力を伝え、負けても応援する

なでしこジャパンに飛びつき、(浅田)真央、羽生(結弦)に飛びつき、錦織(圭)に飛びつき、今度は五郎丸。そうやってブームをどんどん作り出し、スポーツを食い物にする。競技そのものの魅力を伝え、負けても応援する文化が日本のメディアに生まれなければ、スポーツ報道は成熟しないでしょう。

――7月の女子ワールドカップのあと、宮間あや選手が「女子サッカーをブームではなく、文化にしたい」と言っていましたが、先日の帰国会見で、エディージャパンの選手たちも「ラグビーを文化として根付かせたい」と言っていました。

ラグビーも昔、すごく活気づいていた時代があったんです。松尾(雄治)がいて、新日鉄釜石が強かった時代ですね。でも、なかなか企業スポーツの範疇から抜け出せず、一方、サッカーはJリーグの誕生とともにプロ化して、日本における両スポーツの立場に大きな差が生まれた。

でも、ラグビーにはオールドファンがたくさんいますから、日本においてポピュラーなスポーツになっていく素地はあります。今回のワールドカップ、そして4年後の自国開催のワールドカップは発展のきっかけになるでしょうね。

――それには、4年後のワールドカップをなんとしても成功させなければいけませんね。

サッカーの日韓ワールドカップがそうだったんですが、日本人はメンツが懸かると、すごいエネルギーを使って本格的な強化に乗り出すけれど、それが終わった途端に、急に責任の所在が曖昧になり、誰も責任を取りたがらず、成長が停滞するばかりか、下がり始めます。

ラグビーも自国開催のワールドカップまでは、しっかりとした強化を進めることでしょう。ラグビーが本当に日本でポピュラーなスポーツになり、文化として根付くかどうかは、ワールドカップ後に懸かっています。サッカー界と同じ過ちを犯してほしくはないですね。

飯尾 篤史 スポーツライター

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いいお あつし / Atsushi Iio

東京都出身。明治大学卒業後、サッカー専門誌の編集記者を経て2012年からフリーランスに転身、スポーツライターとして活躍中。『Number』『サッカーダイジェスト』『サッカーマガジン』などの各誌に執筆。著書に『残心 Jリーガー中村憲剛の挑戦と挫折の1700日』(講談社)、構成に岡崎慎司『未到 奇跡の一年』(ベスト新書)などがある。

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