天気の"からくり"を解き明かす気象学者、「台風の眼」に航空機で突入して直接観測するワケ。「未来に上陸するスーパー台風に備えよ」
日本人には馴染みの深い台風ですが、厚いベールに覆われていて、わからないことがたくさんあります。
「わからないことがあれば、測ればよい」
私が先輩の研究者から教わった科学者としての大事な姿勢です。測るために私たちはこれからも眼に入り続けなければなりません。
なぜなら日本や東アジア地域における台風災害を軽減し、台風で誰ひとりとして命を落とすことのない社会を作るために、このような航空機観測が不可欠で、しかも最短の道であると信じているからです。
50年先の台風の特徴は予測できる
2021年に放映されたNHK連続テレビ小説「おかえりモネ」は、気象予報士が活躍する物語でした。清原果耶さんが演じるヒロイン永浦百音は、未来の天気を予測できることに感動し、気象予報士をめざします。
このドラマで描かれたように、気象学には地球を知るというおもしろさだけでなく、未来を予測し災害を防ぐという役目もあります。未来は誰もが知りたいものであり、天気を予測することは人の命を守ることにもつながります。
20世紀終盤までの天気予報は、気象観測をもとにした経験的なものでした。現在はすべてコンピュータによって計算されていて、こうした予報を数値予報といいます。これは雲・降水などを含む大気の状態の変化を、現在の観測データから始めて未来まで数値的に計算するものです。
数値予報によって、天気予報はよく当たるようになりました。特に翌日や翌々日の天気は、非常に精度よく予報できます。
しかし3日、4日と先になると、だんだんとはずれることが多くなります。さらに数週間先へ予報期間が延びていくと、予報はどんどん当たらなくなっていきます。
それでは30年先、50年先の予測などできるはずがなく、今世紀後半の予測など信用できないという考えに至ります。しかし、これはまったく誤った考えです。
気象の予測というのは、現在の観測データだけで決まるのではなく、海面水温や太陽放射の量、大気中の温室効果ガスの量、さらには植生分布や海氷分布などの条件によっても左右されます。そして遠い未来になるほど、これらの条件のほうがより重要になります。
確かに50年後のある日、ある時刻の天気を予報することはできません。しかし、50年後のある季節の平均的な状態や、そこで起こる台風の特徴を予測することは可能なのです。
遠い未来の大気の状態を予測するうえで重要となるのは、海面水温と温室効果ガスの量です。それらを設定すると、たとえば今世紀後半の夏季に日本付近ではどれくらいの勢力の台風が発生するのかを予測できるのです。
数値予報をするためには、天気を支配している物理法則に基づいて、コンピュータに計算させる手順書が必要です。これは特別な言語で書かれていて、コンピュータプログラム、数値予報モデル、あるいは単に数値モデルなどのようによばれます。
近年のコンピュータの発展はめざましく、日本には「富岳(ふがく)」や「地球シミュレータ」という世界最速クラスのコンピュータがあり、これらを用いて非常に大規模な計算ができるようになりました。
数値モデルも急速に発達し、現在では非常にリアルに天気を再現することや、高精細の予測ができるようになってきました。
私も20年あまりにわたってそのような数値モデルを開発してきました。特に台風を高精度にシミュレーションすることが目標の一つで、今では実際に観測された台風もリアルに再現できるようになりました。
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