天気の"からくり"を解き明かす気象学者、「台風の眼」に航空機で突入して直接観測するワケ。「未来に上陸するスーパー台風に備えよ」

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台風は強度によって様々な呼び方があります。なかでもスーパー台風というのは、最大地上風速が毎秒67m以上の最強台風で、私の主要な研究対象です。

フィリピン東方海上では、平均して毎年3~4個程度発生しており、日本に接近するものもあります。ただ、これまでのところスーパー台風がその勢力を保ったまま日本本土に上陸したという記録はありません。

おおよそ北緯28度付近、つまり奄美大島付近の緯度が、現在の気候におけるスーパー台風の北限です。

スーパー台風が日本に上陸する未来

現在、地球温暖化という気候変動が急速に進んでいて、さまざまな気象が変わりつつあります。特に台風やハリケーンなどの熱帯低気圧の将来変化については社会的関心が高く、多くの研究が行われています。

日本を含む東アジア地域は台風の影響を強く受けるので、私たちも開発した数値モデルを使って台風の将来変化の問題に取り組んでいます。

その研究では、今世紀後半、地球温暖化により北太平洋西部で海面水温が上昇し、現在のフィリピン東方海上の海面水温が日本本土付近まで広がることを想定します。

そのような未来の海の状態を与えて、多数の台風のシミュレーションを行うと、今世紀後半にはスーパー台風が日本本土付近まで到達するという、非常にショッキングな結果が得られました。

私はこの結果をにわかには信じられず、何度も計算をやり直しましたが、結果は変わりませんでした。考えてみれば台風の最大強度はおおよそ海面水温で決まります。

天気のからくり
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現在、スーパー台風が発生しているフィリピン東方海上の海面水温が日本本土付近まで広がれば、そのような台風が日本に上陸しても不思議ではないのです。

気象予報と災害救助をテーマとしたテレビドラマ「ブルーモーメント」では、スーパー台風が関東地方に上陸する話が出てきました。これはまさに日本の未来のできごとを描いているのです。

私たちは未来に上陸するスーパー台風に備えなければなりません。それは1959年の伊勢湾台風を超える激甚台風です。被害を最小限にするには堤防などのインフラの整備から、災害に耐える社会システムの構築まで、様々な工夫が必要になります。

その実現には相当な時間がかかるので、まさに今から開発や対策を始める必要があります。今世紀後半はそれほど遠い未来ではないのです。

【あわせて読む】台風の眼にジェット機で飛び込む気象学者、「台風は空に浮かぶCD」と例えるワケ。「台風は進行方向の右側と左側、どちらが危険か」知ってる?
坪木 和久 気象学者、名古屋大学宇宙地球環境研究所教授

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つぼき かずひさ / Kazuhisa Tsuboki

1962年兵庫県生まれ。気象学者。名古屋大学宇宙地球環境研究所教授。

北海道大学理学部卒。北海道大学理学研究科、日本学術振興会特別研究員(北海道大学低温科学研究所)、東京大学海洋研究所助手、名古屋大学大気水圏科学研究所助教授、名古屋大学地球水循環研究センター助教授、准教授を経て2020年5月現在にいたる。

2017年、日本人として初めて、航空機によるスーパー台風の直接観測に成功した。

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