天気の"からくり"を解き明かす気象学者、「台風の眼」に航空機で突入して直接観測するワケ。「未来に上陸するスーパー台風に備えよ」

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その高度には暴風と激しい乱気流があり、そこを通過するときは軍用機といえども激しく揺れます。そして壁雲を抜けて眼に入った瞬間、暖かく静穏で、青空と陽の光が満ちあふれる世界が広がります。

私たちが台風の航空機観測に使用するのは普通の小型ジェット機です。台風やハリケーンの暴風は地表面に近いほど強く、一方で10㎞を超えるような高高度になると風が弱くなる構造をしています。

航空機観測の様子
航空機観測に使用したダイヤモンドエアサービス株式会社のガルフストリームⅡ(左上)、研究で航空機から投下したドロップゾンデと呼ばれる観測機器。観測したデータを電波で航空機に送る(左下)、観測を行った際の機内の様子(右上)(画像:琉球大学・名古屋大学・気象庁気象研究所・海洋研究開発機構共同プレスリリース「2017 年台風第 21 号の航空機観測を用いた強度解析と予測実験」の結果について、2018年7月25日)
台風の眼の中
台風の眼の中では下層に雲がかかり壁雲と呼ばれる雲が全体を壁のように取り囲んでいた(画像:琉球大学・名古屋大学・気象庁気象研究所・海洋研究開発機構共同プレスリリース「2017 年台風第 21 号の航空機観測を用いた強度解析と予測実験」の結果について、2018年7月25日)

そのことがわかっているので、私たちはハリケーンハンターとは異なり、高度13㎞以上で台風の眼に入り観測を行います。そうすることで安全に眼に入ることができ、眼の中の上空から海面までの全層の温度分布や中心気圧を直接観測できるのです。

「わからないことがあれば、測ればよい」

このような観測はハリケーンを含めても世界的に例が少なく、北太平洋西部の台風については、私たちしか行っていません。そのデータは台風の構造を解明するうえで非常に貴重で、世界的にも注目を集めています。

観測は日本国内の研究機関だけでなく米国や台湾の研究者からも協力を得て、国際協力のもとで進められています。

私たちが初めてスーパー台風の航空機観測に成功したとき、航空機観測とハリケーン研究の大先輩で日本の台風観測を強力にバックアップしてくれているピーター・ブラック博士が、たいへんドラマチックなメールを送ってくれました。原文は英語ですが、それは次のような内容でした。

「最強クラスのハリケーンの眼に航空機で入ることほどわくわくすることは、この世にありません。乱気流と暗闇の世界から静穏で晴れわたった眼に入るときは、有名な演劇の舞台の幕が開くように、まさに別の世界が広がるのです。そこは言葉にできないほど壮大で幻想的な場所なのです」

台風の航空機観測は、日本ではまだ始まったばかりです。しかし日本は、地球上で最多・最強の熱帯低気圧(台風)が発生する北太平洋西部の最前線に位置しています。そして私たちは世界の誰もやっていない方法で台風の航空機観測を行っています。

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