「軽減税率」は、あまりに問題がありすぎる 消費税の逆進性にどう対応するべきか

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仮にいくつかのモデルケースで、所得による逆進性が現在と変わらないものができたとしても、個々の家計を見れば、家族構成も所得や消費の内容も多様なので、負担が軽くなったり重くなったりする家計がでるという影響のバラつきはいかんともし難い。

所得格差への対策は給付で

消費税の枠組みの中だけで逆進性の問題に対応しようとせずに、個人所得税を使って消費税率引き上げの逆進性の問題を緩和しようという、給付付き税額控除の考え方は一歩進んだものだ。しかし、さらに進んで負担側だけで所得の多寡に対してどうあるべきかを考えるのではなく、給付側も含めて考えた方が良いのではないか。所得格差に対応するための手段は、税や社会保険料といった負担側の方法に限らない。

例えば、日本が経済発展の過程で比較的格差の問題に悩まされずに済んだのは、無料の義務教育を全国民に提供してきたことが一定の役割を果たしたのではないか。低所得者層の生活を改善するような支出の増加といった歳出側の措置も含めて、もっと総合的に考えるべきだろう。

逆進性という問題は、何も消費税に限った問題ではない。消費税の中だけで公平性を保とうという発想は、いたずらに制度を複雑にして非常に大きな歪みを生むだけに終わる恐れが大きい。軽減税率の導入ということは、昨年末の与党税制改正大綱に盛り込まれたことではあるが、もう一度全体を考え直すべきではないだろうか。 

櫨 浩一 学習院大学 特別客員教授

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はじ こういち / Koichi Haji

1955年生まれ。東京大学理学部卒業。同大学院理学系研究科修士課程修了。1981年経済企画庁(現内閣府)入庁、1992年からニッセイ基礎研究所。2012年同社専務理事。2020年4月より学習院大学経済学部特別客員教授。東京工業大学大学院社会理工学研究科連携教授。著書に『貯蓄率ゼロ経済』(日経ビジネス人文庫)、『日本経済が何をやってもダメな本当の理由』(日本経済新聞出版社、2011年6月)、『日本経済の呪縛―日本を惑わす金融資産という幻想 』(東洋経済新報社、2014年3月)。経済の短期的な動向だけでなく、長期的な構造変化に注目している

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