「軽減税率」は、あまりに問題がありすぎる 消費税の逆進性にどう対応するべきか

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おまけに複数の税率を導入することは制度を複雑にし、消費税を運用するためのコストを高めてしまう。食料品かどうかは簡単に区別できそうに見えるが、食べられるものが食用に使われるとは限らないので、実は見かけほど区分は容易ではない。財務省案の問題点として指摘された煩雑だという問題の中には、そもそも複数の税率を設定することが引き起こす、課税の難しさという問題も含まれている。

軽減税率を導入して複数の税率が適用されるようになれば、異なる税率が適用される商品を正しく分けて管理しなくては、正しい課税ができない。このためには、欧州諸国で行われているように、商品ごとに消費税率と税額が明示された納品書や請求書を義務化して、仕入れの際に支払った税額を正確に控除できるようにすることが最善だ。

日本では消費税の課税業者と非課税業者が混在していることによって、販売の際に買い手が負担した消費税の一部が事業者の手元に残ってしまう益税という問題が指摘されてきたが、これも回避できる。しかし、小規模な企業に対してこのように厳密な会計処理を要求することは負担が大きいとして、日本では見送られてきた。

消費税の仕組みを、高所所得者と低所得者間の負担感のバランスが取れたものにしようとすると、どうしても複雑で運用コストが高いものになってしまう。この上さらに、租税の負担逃れや税率適用の間違いなどの問題がない制度を作ろうとすれば、輪をかけて複雑で運用コストが高い仕組みが必要になる。

一定所得以上では社会保険料負担も逆進的

今回消費税率を引き上げるにあたって、消費税の逆進性の問題に注目が集まったが、所得水準に対応する負担が必ずしも累進的でないのは、なにも消費税だけではない。

国税庁の民間給与実態統計調査を見てみると、所得税は所得が増加すると税負担の年間給与に対する比率が急速に上昇する累進構造になっていることが確認できる。

しかし、この統計で社会保険料の年間給与に対する比率を見ると、年収300万円〜800万円にかけては13%くらいでほぼ一定だが、それ以上の所得では負担率が低下して2000万円以上では8%を下回る。この数字を見れば、少なくとも一定所得以上では社会保険料負担は逆進的だ。これは、厚生年金や健康保険の保険料の計算に使う標準報酬月額に上限があり、一定の所得を超えるとそれ以上負担額が増加しないようにできているからだ。 

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