新・三本の矢は政権の軌道修正を示している 安保で支持率低下、景気の先行きも厳しい
「本日からアベノミクスは『第2ステージ』へと移ります」
9月24日、自民党総裁に再任された後の記者会見で、安倍晋三首相はGDP(国内総生産)600兆円を目指すとブチ上げ、「新・三本の矢」(強い経済、子育て支援、社会保障)を打ち出した。
が、肝心の600兆円目標は達成時期や具体的手段が示されず、一言で言うと中身のないスローガンにすぎない。SMBC日興証券の宮前耕也シニアエコノミストは「600兆円は象徴的数字にすぎないが、新・三本の矢はアベノミクスの軌道修正を示したものだ」と指摘する。
旧・三本の矢は、前例のない金融緩和策や財政出動によって、デフレ脱却や円高是正を促すもの。足元の物価上昇率はゼロ%近傍で推移、「2年で2%」の目標は達成できなかったが、物価の基調は変化し、デフレから脱却しつつあることは事実だろう。
このままではまずい、という焦りの表れ
問題は「デフレから脱却しさえすればすべてがうまくいく」という当初のもくろみどおりに事態が進んでいないことだ。消費や輸出、企業の設備投資は勢いを欠き、今年4~6月期の実質GDP成長率は年率マイナス1.2%に沈んだ。いったん上向いた実質賃金上昇率は、物価上昇が響き、2013年半ば以降、マイナス領域で推移している。7~9月期成長率のコンセンサス予想は1.67%だが、下方修正リスクが高い。
宮前氏は「円安になっても輸出が増えにくい構造に変化しているうえ、7~9月期の消費はシルバーウイークの好天により何とか前年比プラスという実力。景気は思ったよりも厳しい」と見通す。
家計を意識した新・三本の矢は、このままではまずいという政権の焦りの表れだ。11日の経済財政諮問会議では安倍首相が「携帯料金などの家計負担の軽減は大きな課題」と、軌道修正を象徴するような指示を発した。
25日には日本銀行の黒田東彦総裁と安倍首相が首相官邸で会談、市場は「すわ追加緩和か」と色めき立った。
しかし、携帯料金に関する指示に見るように、官邸サイドは「追加緩和は円安、輸入インフレを促進し、家計を痛めつけるだけ」という判断に変わった可能性がある。もしそうなら、これまで「躊躇なく」と言っていた黒田総裁は追加緩和に動きにくい。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら