しかも、マイスリーの副作用で、用もないのに人に電話をかけたり、冷蔵庫の食材を食べ散らかしたり、自転車に乗って隣町に行っちゃったりしていた。怖いことに、そのときの記憶がまったくないんだよね」
マイスリーは短期型の睡眠薬で、日本では軽い不眠の人に使いやすいとされている。しかし、まれに服用後に異常行動が現れることがあり、深刻なけがや死亡に至ったケースも世界中で報告されている。日本では比較的安易に処方されているが、アメリカ食品医薬品局(FDA)が推奨用量の減量を求めているような薬だ。
「東大時代の後輩で編集者をやっているやつがいるんだけど、夜中にそいつに意味不明な電話をかけちゃってね。心配したそいつが、俺をアルコール依存症の専門病院に引きずっていってくれたんだよ。そこで医者に、『あんたはアルコール依存症だ』と言われてしまった。
俺としてはマイスリーが原因だと思うんだけど、どのみちそのことを職場に報告したら、その場でクビになっちゃった」
アルコール依存症は警備業法における欠格事由の1つである。警備業法第3条の6項には、「アルコール、麻薬、大麻、あへん又は覚醒剤の中毒者」は、警備業を営んではならないと明記されているのだ。医師の診断をバカ正直に告げれば、クビになるのも当然である。
マイスリーとアルコールとの併用は控えるべきとされており、処方される際にはそう説明も受けているはずだから、それを自分の意志で守らなかった/守れなかったのなら、やはり齋藤さんはアルコール依存症ということになるのだろう。
それ以来、平日の午前中は毎日、アルコール依存症外来のデイケアに通っている。
「最初、『今後、あんたは一生酒を飲めませんよ』と言われたときは、『冗談だろ?』と愕然としたんだけど、愕然としながら1日1日を飲まずにすごして、なんとかやってるよ」
齋藤さんの断酒期間は、すでに800日を超えていた。
抗酒剤を飲みながら生活再建
「午前中は病院のアルコールデイケア、午後は家でイラストの仕事という生活をしているよ。朝7時に起きて、8時にデイケアに行く。そこで、朝一番、看護師の目の前でノックビンという粉の抗酒剤を飲むんだよね。
抗酒剤を飲むと、少しの酒でも七転八倒するようになるみたい。要するに、激烈な二日酔いだね。抗酒剤の効果が切れるまでは、酒なんて飲めなくなるって寸法だよ」
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