齋藤さんを気遣う高学歴・高収入の「持てる者」たち。一方、齋藤さんが通うデイケアには、真逆の人々が集っている。
「ミーティングでいろいろな人の話を聞くけれど、5人に1人は前科持ち。人を殺したってやつも、これまでに2人いたね。会社に勤めていたという人もいるけれど、知的ボーダーライン者が少なくない印象だな。小学生レベルの漢字が読めない、足し算・引き算がおぼつかないという人たちも多いよ。
ほとんどの人は、今の社会に働き場所がないし、働けない。そういう人たちを日本の社会が十分にキャッチアップできていないのは、深刻な問題だと思うよ。彼らは病院に来ているだけアルコール依存症患者としてはマシなほうなんだけども、世間的には社会の底辺だよね」
地元では神童扱いされていた俺
齋藤さんはデイケアで日々「持たざる者」たちと接しながら、かつて東大で学んでいた自分に複雑な思いを抱いているようだった。
「君らは普段、東大卒のインテリや上級国民と呼ばれる人たちとしか接してないだろうから、そんな人たちが世の中には大勢いるなんて信じられないだろ?
俺は社会の上層も底辺もこの目で見ているからね。地元では神童扱いされていた俺が、今やアル中として社会の底辺にいる。なまじ上層を知っているだけに、『マジか。ここまで墜ちちゃったか』と自分自身に唖然としているよ」
齋藤さんは午前と午後で、両端の世界を行き来している。かろうじてつながっている東大時分の交友関係が、彼に画用紙の上に線を引かせ続けていた。
「俺だって、東大を切っ掛けにしたつながりがなかったら、アル中になって警備員をクビになったところで社会人としては詰んでいたはずだよ。紙とペンでそれなりの絵は描けるけど、事務なんかのパソコン作業はからきしだしさ。
生産性でいえば、俺は社会の役にはほとんど立っていないんだろうね。でも、俺を気にかけて俺に何かを期待してくれる人が数人いる。だから、せめて今の自分にできる絵の仕事だけは真剣にやろうとしているよ」
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