苦笑しながらも、展望が開けたことにホッとした表情を見せる信彦さん。筆者も仕事で週の半分ほどは東京に滞在する「ゆるい週末婚」を続けているため、他人事ではない。信彦さんと由里さんのように東京と愛知での「完全別居婚」をするつもりだったが、結婚前に先輩からこう諭された。
「とりあえず自宅はひとつにしろ。大変でも愛知から東京に通え。ラブラブのうちはいいけれど、結婚生活にはいろんなことがある。ケンカしたら電話1本で別れることになるぞ」
結婚して3年が経ち、先輩のアドバイスは正しいと思うようになった。妻と言い争いをしても、家の中で顔を合わせていれば歩み寄れる。子どもの頃は兄や弟と殴り合いのケンカをしても、翌日までは引きずらなかったのと似ている。信彦さんと由里さんの場合も、信彦さんの育児休暇によって3カ月間は一緒に暮らせたことで、初めて「家族」になれたのだと筆者は思う。
それでも「待ったかいがあった」相手だと思う
信彦さんの意見は少し違う。遠距離別居婚にもメリットとデメリットの両面があるというのだ。
「確かに、コミュニケーションが取りづらいので関係性が危機に陥りやすいとは思います。子どもの成長をリアルタイムで見られないのも寂しいですね。でも、ひとり暮らしなので自由な時間が確保できます。これは大きなメリットでしょう。『学生から(未婚で)変に思われていないか』という心配もなくなりました」
仕事と育児をひとりで両立している由里さんは異なる感想を述べると思うが、少なくとも信彦さんは現在の身軽な生活に満足しているようだ。妻が我慢できる範囲であれば、夫が元気かつのんきであることは、晩婚さん生活に明るさをもたらすと思う。不機嫌な中高年男性ほどやっかいなものはないからだ。
「同い年の妻とは何でも対等に話せて、人生に対する価値観が似ていると感じています。介護が必要になった私の両親に関しても、一生懸命に考えてくれる。情に厚い女性なのです。ケンカをすることもありますが、いちばんいい人と結婚することができました。待ったかいがあったと思っています」
待ったかいがあった――。信彦さんと由里さんだけではなく、すべての晩婚さん夫婦に捧げたい言葉だ。若い頃に思い描いていた結婚の形とは、だいぶ違うかもしれない。でも自分にとっては、この年齢でこの人と結ばれることがちょうどよかったのだ。今までの経緯全部を肯定してくれるような結果をこそ、われわれは胸を張って「晩婚」と呼びたい。
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