2020年度までの財政健全化が将来を決める 「財政に関する長期推計」が示す数値目標

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では、どの程度財政収支を改善すれば債務残高対GDP比を着実に引き下げるか。今般の「我が国の財政に関する長期推計(改訂版)」は、それを明らかにした。わが国の財政状況と政府債務に関する長期的な動向を分析し、財政収支改善がどの程度必要なのかを指標で示す取り組みは、これまでにもいくつかあった。

EU(欧州連合)の政策執行機関である欧州委員会は、"Fiscal Sustainability Report 2012"でEU加盟国の必要な財政収支改善幅を分析した。日本では、同じ財政制度等審議会で14年4月に、EUの手法に準拠して国際比較可能な形で、必要な財政収支改善幅を公表した。今般公表したのは、2014年の改訂版となる。つまり、直近の税収や財政支出のデータを踏まえて更新し、2014年6月に厚生労働省が示した「年金財政検証」を踏まえて修正し、「経済・財政再生計画」で示された改革策の一部を反映した形で改訂した。

分析手法は、欧州委員会で採用されている客観的なものであり、これ自体に脚色が加わっているものではない。年金等の社会保障給付についても、内閣府や厚生労働省等で通常用いられる将来推計の手法を踏襲している。

まず、その分析結果から紹介しよう。特別な財政改革も行わず現行制度のまま放置して歳出を出し続けると、政府債務残高対GDP比は、2030年代には300%、2050年代には500%と、歯止めなく上昇し続け、財政は立ち行かなくなる。

他方、名目経済成長率が今後ずっと継続して3%強で推移するとして、2020年度以降も対GDP比で9.53%の財政収支改善を毎年度継続すれば、長期的に政府債務残高対GDP比を上昇しないように抑えられる。

ただ、名目経済成長率が2024年度以降1.6%まで低下するシナリオだと、2020年度以降に対GDP比で11.12%の財政収支改善を毎年度継続すれば、長期的に政府債務残高対GDP比を上昇しないように抑えられる(政府債務残高対GDP比を2060年度に107.6%にまで下げてそれ以降この水準で維持できる)。

2020年度までにPB黒字化達成なるか

これに対して、2020年度までに「経済・財政再生計画」で示された国と地方を合わせた基礎的財政収支の黒字化を達成できれば、2020年度以降に必要な財政収支改善幅(対GDP比)は、11.12%から9.78%に下がる。2016年度から2020年度までに社会保障費を含む歳出改革をしっかり行えば、2020年度以降に歳出抑制なり増税なりをする必要度合いが弱まる。2020年度以降で毎年度、対GDP比でみて1.3%、金額に直せば6兆~8兆円もの大きさで歳出抑制や増税をせずに済む。まさに「先憂後楽」であることを意味する。

今般の「長期推計」は、その意味で、2020年度までの財政健全化が、重要でありかつ将来的にもよい影響をもたらすものであることを示している。2020年度までの財政健全化には、現時点では消費税率を2017年4月に10%とすることは含まれるが、10%超にすることは含まれていない。むしろ、社会保障費を含む歳出抑制が財政健全化策の中心となっている。この2020年度までの財政健全化努力の価値を示したのである。

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