もう1つの「長期試算」から得られる重要な含意は、歳出の抑制を継続することが、経済成長や出生率上昇を促すよりも財政健全化に貢献する、ということである。
では、こうした長期推計を、なぜ内閣府ではなく財政制度等審議会で示したのか。内閣府は年2回、「中長期の経済財政に関する試算」を公表している。この内閣府の「中長期試算」については、本連載でも、拙稿「内閣府がひた隠す2020年度収支のカラクリ 赤字額9.4兆円から6.2兆円に『急減』のナゼ」でも取り上げた。
内閣府の「中長期試算」に足らない情報
ここ数年、内閣府の「中長期試算」では、2023年度までの試算結果を示してはいるが、それ以降についてはかたくなに示そうとしていない。内閣府の「中長期試算」における2023年度までの試算結果を見ると、足元の異次元金融緩和政策、ゼロ金利もあいまって、名目経済成長率より名目金利の方が低い状況であることが強く作用して、基礎的財政収支が赤字であるにもかかわらず、政府債務残高対GDP比は低下するという試算となっている。
しかし、内閣府の「中長期試算」では、2010年代後半にはデフレ脱却が実現して、インフレ率は顕著にプラスとなり、それとともに名目金利が上昇して、2020年度以降は名目成長率よりも名目金利の方が高い試算となっている。そうなれば、十分な基礎的財政収支黒字が確保できないと、将来いずれ政府債務残高対GDP比は上昇に転じる。
それでも、内閣府の「中長期試算」では2023年度までしか公表していない。2024年度以降には政府債務残高対GDP比は上昇に転じ、財政収支改善努力を継続しなければ、その比率は歯止めなく上昇するという懸念があるのだが――。そんな中で、財政制度等審議会にて2060年度までの推移を示す形で、欧州委員会の分析手法に倣いつつ、先のような分析結果を公表した。
内閣改造を終え、新大臣を迎えて、2016年度予算編成がいよいよ本格化する。2020年度の財政健全化目標を達成するための初年度の予算編成で、「経済・財政再生計画」で掲げた歳出抑制をしっかり取り組むことができるのか。第3次安倍改造内閣の真価が問われる。
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