なぜ病んだわが子を「殺して」と懇願するのか 身内の厄介なものを排除しようとする親たち

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しかしながら当然、この問題が社会に与えるインパクトとして最も大きいのは、凶悪事件の発生であり、治安の悪化である。そのような事件の報道を見ると、「以前から周辺住民からの苦情があった」「犯罪歴があった」という容疑者情報が流れることが多い。その度に、「なぜ未然に防ぐことができなかったのか?」という憤りを感じる方は多いだろう。

本書の読者は、全編をとおしてこの問いに向き合い、この状況を打開することの難しさを痛感するだろう。しかしそれと同時に、解決の糸口を見い出すこともできる。著者は、第5章「日本の精神保健分野のこれから」で次のような提言をしている。

“今や、保健所や医療機関が好んで対応するのは、病識があり、通院や服薬も進んで行える患者です。こういった患者には、退院後のケアも含め、手厚い対応がなされています。しかし私からすると、病識があり、通院や服薬も進んで行える患者だけを精神障害者として扱う現状には、大いなる疑問があります。なぜなら私はこれまでに千件以上の移送に携わってきましたが、家族の最大の悩みは、本人に病識を持たせることができない点にあったからです。仮に医療につなげられたとしても、退院後、通院や服薬をやめてしまい、再びトラブルや問題行動を起こす……この繰り返しに、家族は苦しんでいるのです。
(中略)
だからこそ私は、このような対応の難しい「グレーゾーン」の患者(対象者)の初動対応・介入・連携に当たれる、全国防犯協会連合会のような公益財団法人(以下スペシャリスト集団)を作ることを提言したいと思います。

対象者、家族、周囲の人々の命を護るために

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教育に「本気さ」が必要なように、社会問題を扱う本には「本気さ」が不可欠だ。それが本書には、確実にある。私はこの「本気さ」によって著者を信頼し、この提言に与したいという思いになった。特に現実的だと思ったのが、このスペシャリスト集団は警察OBで構成されるべきだとしている点だ。

現在、保健所をはじめとする行政機関は、家族に対して「何かあったら110番通報を」と促しているという。千件を超える経験をとおして、初動対応・介入のノウハウが最もあるのは、現場の警察官だということを著者は知っている。この著者の提言について、その制度に関わる人に「本気で」検討してもらいたいものだ。対象者、家族、そして周囲の人々の命を護るために。

吉村 博光 HONZ

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よしむら ひろみつ

夢はダービー馬の馬主。海外事業部勤務後、13年間オンライン書店e-honの業務を担当。現在は本屋さんに仕掛け販売の提案をする「ほんをうえるプロジェクト」に従事。

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