トランプによるウクライナ戦争の停戦交渉はなぜ失敗するのか、古典が示す世界で戦争が絶えない根本的な理由
いわゆる国家の持つ力のリアリズムである。これはユーフォリアから現実主義への回帰であった。国際社会においては共通の道義心や忠節心はない。あるのは、リアルな利益の対立である。
18世紀のような貴族社会では、世界市民のような貴族的外交官がいて、国家を超えた世界の利益という議論を遂行できたのだが、近代の国民国家という枠の中ではそれは不可能になったというのだ。
国家対国家という利益の対立が深まるなか、モーゲンソーは次の結論を引き出す。
「何人も成功に導くことはできない」
確かに1907年のハーグ条約によって毒ガス使用などは禁止されたが、第1次世界大戦でこれは破られた。1928年のパリ不戦条約によって戦争放棄が謳われたが、第2次世界大戦で吹き飛んでしまった。

それでは、度重なる戦争という事実を前にして、われわれは18世紀のイマヌエル・カント(1724~1804年)の『永遠平和のため』(1795年、邦訳は宇都宮芳明訳、岩波文庫、1985年)も、シャルル・サン・ピエール(1658~1743年)の『永久平和論』(1713年、邦訳は本田裕志、京都大学学術出版会、2013年)も、たんなる夢想家の戯言だったと考えるべきなのであろうか。これまで蓄積してきた国際法規や国際条約は無効となるのだろうか。
なるほど、これらの思想は19世紀から現在までの支配した西欧的価値観によって生まれたものである。西欧世界の力の衰退とともに、衰退するのもいたしかたないのかもしれない。
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