「この30年で日本は驚くほど変わった」日本大好きエコノミストと、知日派ジャーナリストが見た日本で起きている”劇的な変化”
カッツ:経済成長のためには、劣った企業が撤退し、新しい優れた企業や斬新なアイデアが絶えず流入する必要がある。そうした企業の入れ替わりが日本には少なすぎる。日本人はよく「大企業病」の問題を指摘するが、それ以上に「老舗企業病」があると思う。既成概念に囚われた企業は時代が変わっても変化することが難しい。
現在の政治システムや政策はベンチャーよりも既存企業に偏っている。スタートアップに対する多くのレトリックが語られているが、実際には何も行われていない。これは、例えば現在は大企業に偏っている研究開発援助などを新興企業にも向けるよう促進することなどによって解決可能だ。
新興企業は既存企業を潰すという誤解
スミス:スタートアップが古い企業に取って代わることはめったにない。テスラのような例はあるが、グーグルやフェイスブックに置き換えられた企業は多くない。こうした企業は新たに経済に加わったという形だ。
既存企業とスタートアップが労働力などの資源を巡って競争しない、という意味ではない。競争はあるが、直接的な市場競争という点では、破壊的イノベーションはたんに新たな製品を生み出す以上のインパクトはない。
ポール・クルーグマン氏の貿易論によると、製品の多様性こそが経済を成長させるが、これは既存の製品を効率的に生産することが重要なのではなく、経済を成長させるのは新しい製品、ということだ。
アメリカの時価総額上位100社を見ると、プロクター・アンド・ギャンブル(P&G)やジョンソン・エンド・ジョンソンなど古い企業がたくさんあることがわかる。そこへアップルやグーグル、エヌビディアといった新しい企業が加わり、今は上位を占めるようになっているだけだ。
失敗した企業は消えるかもしれないが、実際に起こっているのは、古い経済が縮小する一方で新しい経済が急成長しているということだ。スタートアップは何かを壊すのではなく、何かを足す役割を果たしている。日本人は恐れすぎに見える。
日本企業が気づいていないこと
カッツ:私は、創造的破壊は起きていると思う。確かにアメリカの老舗企業では売り上げが落ち込んでおり、例えばIBMの売り上げは3分の1減ったし、ゼネラル・モーターズ(GM)のように市場シェアを失った企業もある。
が、多くの企業は完全に姿を消している。1957年当時、S&P500に入っていた企業のうち、50年後には300社が消えていた。つまり、300社は閉鎖されたか、別の企業に買収されたことになる。買収された場合も、その目的は技術や人材の一部を取り込むことだけだったりする。
アメリカのビッグスリーは1970年代に日本の自動車メーカーからの挑戦に気がつかず、ガソリンを大量に消費する車ばかりを作っていたため、シェアを減らす羽目になった。そして今、日本の自動車メーカーは電気自動車革命と中国の動きに気づいていないのかではないか、と心配になる。
P&Gにしても、なんでも発明していたP&Gとは違う姿になっている。現在、同社はオープンイノベーションを通じてスタートアップと協力して製品を生み出している。
日本企業はオープンイノベーションを真から理解していないように思う。これは企業が自らを”再開発”する能力で、デジタル時代には企業間の協力や、異なる考え方を取り入れることが成長のカギとなる。
例えばトヨタ自動車は、すべてのデジタル技術を自社開発することはできないとわかっているので、この分野を熟知している独立系ソフトウエア会社と提携をしている。こうした協力を受け入れる企業と、できない企業との間に差が生まれていく。