「風邪が5類?」「風邪を報告?」厚労省が新たに始めた患者数のモニタリング調査《パンデミックへの備え》になりにくい残念な理由
さらに、風邪を報告させても、パンデミックを早期に予防することはできないと筆者は考えている。なぜなら、ライノウイルスや季節性コロナウイルスに混じった、ごく少数例の新規感染症を検出するなど不可能だからだ。NREVSSやTESSyは、既知の感染症の流行状況をモニタリングするためのもので、新たな感染症の発生に備えるためのものではない。
もちろん、先ほど紹介した新潟県の調査のように、風邪の患者から採取した検体すべてを、ウイルス培養や遺伝子検査によりチェックすれば、そのような目的にかなうかもしれない。
だが、それには膨大な費用と手間が必要になる。現在の医療システムに大きな負担をかけない、現実的な落としどころが必要だ。
最大の問題は「医療機関の負担」
そして新調査の最大の問題は、医療機関の負担増だ。特に多くの風邪患者を診察する小児科への影響は大きい。
小児医療の体制強化は、少子化が進む我が国で優先順位が高い政策課題だ。ところが、厚労省は小児科医療を軽視してきたと言わざるを得ない。
クラウド型電子カルテの販売会社CLIUSの調査によれば、関東地方の2020年度の診療科別平均診療点数(1点は10円で換算される)の診療単価は、小児科が974点で、彼らが調べた12の診療科のうち皮膚科、耳鼻咽喉科に次いで安かった。内科1184点とは210点も違う。患者1人当たり2100円も収入が違う。
子どもの医療は最も優先度が高く、付加価値が高い。何より診察に手間がかかる。それなのに診療単価が安いということは、多くの小児科が赤字となっていることを意味する。
事実、経営サポートセンターが2022年3月に発表した調査によると、小児科診療所の約45%が赤字経営だ。小児科の事業利益率は-1.6%と、皮膚科(4.3%)、整形外科(1.7%)、内科(0.0%)より低い。
新調査により、約3000の小児科定点医療機関が報告の負担を強いられる。冬場、小児科は風邪の患者であふれる。業務負担は著しく増えるだろう。その負担は医師や病院職員にのしかかる。診療に悪影響が出てもおかしくない。
今回のモニタリング調査が本当に国民のためになるのか。筆者ははなはだ疑問である。
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