「風邪が5類?」「風邪を報告?」厚労省が新たに始めた患者数のモニタリング調査《パンデミックへの備え》になりにくい残念な理由

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具体的には、小児科定点ではインフルエンザや手足口病、水痘など10種、内科定点ではA群溶血性レンサ球菌咽頭炎や感染性胃腸炎など5種、眼科定点では流行性角結膜炎など2種、性感染症定点ではクラミジアや淋菌感染症など4種、基幹定点(感染症対策の中核病院)ではマイコプラズマ肺炎や薬剤耐性菌感染症など5種が対象である。

新しい調査の特徴は、風邪を内科、小児科のモニタリング対象に加えたことだ。

風邪はライノウイルスや季節性コロナウイルスなど多数のウイルスによる急性上気道感染症の総称で、咽頭炎や鼻炎、気管支炎など、さまざまな疾患が含まれる概念だ。厚労省は今回の措置により、感染症の流行状況を網羅的に把握することが可能になると考えた。

グローバル化と円安傾向の結果、日本には世界各地から観光客が押し寄せている状況や、新型コロナ流行後に世界中でさまざまな感染症が流行している状況を鑑みれば、感染症のモニタリング体制を強化することは時宜を得た対応だ。

これは世界の趨勢とも一致する。

アメリカ疾病管理センター(CDC)の全国呼吸器ウイルス監視システム(NREVSS)は、インフルエンザ、RSV、ヒトメタニューモウイルス、パラインフルエンザ、アデノウイルスなどを監視、医療機関や検査機関からリアルタイムで収集したデータを開示している。

ヨーロッパ疾病管理センター(ECDC)のTESSy(ヨーロッパインフルエンザ・呼吸器ウイルス監視ネットワーク)は、EU全体でインフルエンザやRSV、hMPV、パラインフルエンザなどを統合的に監視し、データを公開している。

「風邪をモニタリング」の問題

こうした背景を踏まえて始まったのが厚労省の新しい調査だ。だが、筆者が問題視するのは、「風邪をモニタリング対象に追加することで、はたして、どの程度の成果が期待できるのだろうか」という点だ。

アメリカやヨーロッパで行われている疾病のモニタリングは、“確定診断が可能な疾患”を対象としている。一方、厚労省が今回、調査対象とした風邪は、あいまいな疾患概念である。診断基準すらない疾患に関する報告を集めて、何か意味がある施策が打てるのだろうか。

何より、風邪にかかっても多くの人は医療機関を受診しない。医師による診察や処方薬が必要なほかの感染症とは違う。モニタリングの結果は、大幅な過小評価につながりかねない。

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