毎日の授業に、繰り返しの暗記…《それでも最後の1割は戦闘でしか学べない》 アメリカの世界最強「海兵隊」士官候補生学校での学び
最初のうちは、カリキュラムがばかばかしく思えた。わたしが学んできた教養教育では、議論、討論、複雑な概念の繊細な解釈に重きが置かれていた。
しかし、教官いわく、戦闘では議論や討論をしている時間など滅多にない。複雑な概念は単純化すべし、さもなくば概念は概念のままで、けっして実行に移されない。
リーダーの条件は、ふるまい、勇気、決断力、信頼、忍耐力、熱意、先導力、真摯さ、判断力、正義感、知識、忠誠心、機転、利他性だ。候補生はこれに加えてほかのリストもひとつひとつ、何度も何度も繰り返し教えこまれた。
わたしはそれを教室で覚え、食堂の列に並びながら覚え、夜は寝台の中で覚えた。暗記する目的は、そうすれば直感にすりこまれるからだと聞かされた。内面化されて意思決定プロセスに作用し、全く意識しなくてもあらゆる行為にそれを浸透させられるようになる、と。
大尉のひとりが教室の前に立ち、第一次世界大戦でオスマン帝国に対するアラブ人の反乱を指導したT・E・ロレンスの言葉を引用した。
〝戦術の9割は決まりきったものであり、それは書物で学ぶことができる。しかし、残る1割は瞬く間に池を横切るカワセミのようにとらえどころがなく、指揮官はその1割で真価を試される。それを獲得する方法はただひとつ、一瞬の羽ばたきをとらえるべく思考鍛錬を重ね、危機の際には反射のように自然に働くようになった思考によって、直感を研ぎ澄ますことのみである〟
大尉が言うには、OCSで学べるのは1割で、あと5割か6割は海兵隊基礎訓練校で学ぶ。運がよければ、最初に配属された小隊で、さらに1割か2割を習得できる。最後の1割は戦闘でしか学べない。その1割は、われわれ候補生にとって、途方もなく遠いものに思えた。
候補生が退学するたびに寝る場所が変わる
最初の3週間のうちに、寝る場所が4回変わった。候補生が退学になるたびに寝台の空きができ、それを埋めるために移動を繰り返したからだ。罪状は様々だった。
ふたりは長距離走に3度続けて不合格で〝身体的に不適格〟。もうひとりは文章課題で概念を理解できず〝学業不振〟。この3人は、教官たちに嘲笑われながら自分のフットロッカーを空にし、追い出されていなくなったあとも馬鹿にされた。しかし4人目はもっと厳粛に扱われた。
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