また、田中さんご夫婦は私のお伝えしている「心の代弁ノート」にも取り組みました。できごとに沿って、子どもが何を思って生きているのかを想像し、自分が子どもになったように気持ちを書き出してみるワークです。
父:「中学1年生のときの次女の気持ちを書き出してみたんです。スーパーのフードコートでやっていて、次女はこんな気持ちだったのかと想像して涙でぐちゃぐちゃになりました。子どもに寄り添おうと頭の中で考えているだけではダメですね。本気で子どもの気持ちになってみないと」
母:「あの頃は『誰かに救ってもらいたい』という気持ちだったのかもしれません。子どもを救えるのは第三者ではなく親しかいないのに。そのことを次女が身を挺して教えてくれました」
娘さんは今、紆余曲折ありつつも、自分の気持ちを一つひとつ確認しながら高校生活を送っています。田中さんご夫婦は「それはまるでジェットコースターに乗っているようです」と言いながら、「とことん付き合います(笑)」と宣言されました。
そして、お父さんも新たな決意をされました。通信制の大学に入り、福祉の勉強を始めたのです。「自分の経験が誰かの役に立てばいいなと。これは次女の不登校があったからこそです」
子どもが最終的なSOSを出す前に
田中さんはつらい記憶を包み隠さず話してくださいました。その奥には「同じ境遇の人たちに自分たちのような苦しい思いをしてほしくないから」という気持ちがあります。

冒頭に述べましたが、実は田中さんと似たような経過をたどった親御さんが他に何人も私の講座に来られています。息子さんが救急搬送され、命を落としそうになった方もいます。
そんな事態をいったいどうしたら防ぐことができるのでしょうか。私は長くその答えが見つかりませんでしたが、田中さんのような方の経験談を伝えることしかないと思いました。
今、世の中には「不登校は甘やかす親の責任。厳しくするべき」という意見と、「長い目であたたかく見守りましょう」という意見がまるで対立するように存在しています。
厳しくすることで復学する子どもがいるのも事実です。また、見守るというのはなにもしないことではありません。子どもにしっかり向き合って伴走することです。大切なのはどちらの方法もなかみをよく知り、お子さんや家庭に合った方法を適切に使っていくことです。
田中さんは「そのときはその方法しかないと思っていた。頭をハンマーで殴られるような衝撃がないと気づかなかった」と言われました。子どもが不登校になると混乱の渦に放り込まれ、視野が狭くなります。だからこそ子どもの性格や気持ちを理解したうえで、情報をきちんと得て冷静に方法を選んでほしいのです。子どもが自分を傷つけるSOSを出す前に。
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