ドゥテルテ前大統領逮捕から1カ月、現職大統領の支持率低下、5月中旬の中間選挙を前に分断深まるフィリピン社会
今回の上院選がいつも以上に注目されるのは、サラ氏が大統領夫妻らへの暗殺発言や政府予算の不正使用、超法規的殺人への関与などを理由に下院から弾劾訴追され、上院議員全員が裁判官となるためだ。24人中3分の2にあたる16人が賛成すれば可決され、サラ氏は公職から追放される。
サラ氏は2028年に予定されている次期大統領選に意欲を見せる最有力候補だ。当選すれば報復に出ることは間違いないため、マルコス陣営としては何としても弾劾して政治的に息の根を止めたい。
サラ氏の弾劾裁判の行方
弾劾裁判は選挙後の2025年7月に始まるが、非改選の議員らの多くは賛否を明らかにしていない。ドゥテルテ陣営としてはデモや集会で議員らへの圧力をかけたいところだが、本人が手の届かない外国で拘束されている以上、「帰国を」と叫んでみても詮無いことは支持者も感じているはずだ。
誕生日の集会もダバオやミンダナオでは盛り上がっても、マニラでは参加者が1000人に届かなかった。上下院や大統領府が立地する首都圏での動員が課題だ。
ドゥテルテ陣営はICCの管轄権に異議を唱え、政府の対応を厳しく批判する。加盟国ではない国の元指導者を逮捕する権利があるのかとの疑問に加え、ICCは対象国が司法手続きを取らない場合にのみ捜査に乗り出すことになっているが、フィリピン司法省は超法規的殺人について捜査を検討すると表明していた。にもかかわらず逮捕に踏み切ったことへの疑義だ。
身柄を引き渡した政府は国民の保護を定めた憲法に違反するとともに国家主権より政治的な思惑を優先させたと主張する。さらに前大統領をマニラ国際空港で拘束した際、国家警察の幹部らは国際手配書や逮捕令状などを示していないとも指摘している。
司法手続きを経ない「超法規的殺人」が問われているドゥテルテ陣営が攻守ところを替えて「法の適正手続き」を強く主張している。
一方のマルコス政権は、被害者や遺族の人権尊重を訴え、誹謗中傷を慎むよう訴えている。現大統領の父の独裁政権下では戒厳令により多くの殺害や拷問による人権侵害が報告された。ボンボン氏も当時、州知事として権力の一端に位置していた。
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