トランプ関税の効果と決定の内側(中)立案者の1人は「最も過激な保護貿易主義者」で、もう1人は「貿易戦争のための青写真」を執筆
ナバロの貿易理論を理解する手掛かりの1つが、2019年4月26日にハーバード大学で行った講演である。ナバロは次の3点を掲げ、これらを実現すれば、アメリカ経済は成長すると主張している。
② 中国に圧力を加え通商政策の改革を行わせる
③ 関税制度を改革する必要がある
もう少し詳しく見てみよう。ナバロは、自由貿易が世界に恩恵をもたらすとする伝統的な国際経済学は死んだと考えている。現在の世界市場は「産業スパイ、頻発する不正行為、知的財産の剽窃、強制的な技術移転、国家資本主義、為替相場の不整合によって支配されている」と断じる。
さらに古典派経済学が主張する自由競争は「貿易相手の一方、あるいは双方が嘘をつき、スパイし、盗むことができるシステムである」と批判し、「中国のような国から偽造品やフェンタニールの密輸品がアメリカに洪水のように流入している」と指摘している。2期目の就任直後にトランプ大統領はメキシコや中国、カナダに高関税を課す大統領令を発表し、その理由の1つに「フェンタニールの密輸阻止」を挙げている。これはナバロの主張そのものである。
またナバロは関税について「アメリカが自動車に課す関税は2.5%だが、カナダは10%、中国は15%、インドは125%である。同じ製品に同じ関税を課すべきである。現在の関税制度で最も被害を受けるのは平均して最低の関税率のアメリカである」と主張する。まさに相互関税だ。6年前の主張が、そのまま現在の政策に反映されているのは驚きだ。
年6000億円の関税収入が減税の財源に
ナバロの経済思想に関して『The Reason』誌(2020年12月号、「Peter Navarro’s No-Good Economic Nationalism」)は「ナバロは地球上で最も力のある一人になった。多くの点でナバロはトランプ大統領の鏡である。彼はトランプの精神とアイデアを映し出している。二人の間に否定しがたい類似性がある」と書いている。両者に共通するのは、貿易赤字の削減が、アメリカの経済成長を高めるという考えである。また両者は、関税を高めれば、輸入が減り、国内生産が増えるという認識でも一致している。
こうした考えに基づき、第1次トランプ政権で「一部の関税引き上げ」が行われた。第2次トランプ政権では最初に中国とメキシコ、カナダに対する関税引き上げが行われ、さらに相互関税により全製品の関税引き上げが行われた。第1次政権の政策の拡大再生産である。
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