トランプ関税の効果と決定の内側(中)立案者の1人は「最も過激な保護貿易主義者」で、もう1人は「貿易戦争のための青写真」を執筆

著者フォロー
ブックマーク

記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
はこちら

印刷ページの表示はログインが必要です。

無料会員登録はこちら

はこちら

縮小

ミランの議論は、妥当性は別にして、ナバロの議論よりも論理的である。同論文は次の文章で始まる。「世界の貿易制度を改革し、外国に対してアメリカ産業を公平な条件に置きたいという願望はトランプ大統領が何十年にわたって抱いていたテーマである。私たちは国際貿易と国際金融制度の世代的変化の最先端にいるのかもしれない」。ミランは貿易制度と為替制度の両方を問題としている。

関税について「私はアメリカの税制の枠組みの中で最適な関税率について議論する」とし、関税引き上げは関税収入を増やす一方、国内のインフレを高進させるが、貿易収支改善によりドル高となって、インフレの影響は緩和されると主張している。関税引き上げはインフレを招き、経済はリセッションに陥りかねないという一般論を真っ向から否定する。

第1次トランプ政権時、2018年から2019年に中国に対する関税率は17.9%引き上げられたが、人民元の対ドル相場が13.7%下落した結果、関税引上げの実質的な影響は4.2%だった。その間のアメリカの消費者物価指数は約2%上昇したにすぎない。考えられるのは、為替が下落した輸出国の業者は、ドル建てで輸出しているので、利益率が高まる、そうすれば業者は輸出量を確保するために、ドル建て価格を引き下げる余裕ができる、という流れだ。

関税を引き上げても、為替相場の変動で関税引き上げの影響を緩和できるという理屈だ。ミランは「こうした貿易戦争(関税引き上げ)によるインフレへの影響は非常に小さい(any inflation from this war was small enough)」「マクロ経済に目に見えるような影響はなかった」と結論付けている。

「歴史的に高関税で高成長は可能」

もう1つ、「関税を負担するのは誰か」でも異論を展開する。通常は「関税は輸入国の消費者が負担するもので、一種の増税である」とされる。が、ミランは違う。輸出国はアメリカの関税引き上げで為替相場が下落し、その国の消費者の購買力が低下する。すなわち関税引き上げは最終的にはアメリカの消費者ではなく、輸出国の消費者が負担することになると主張する。トランプ大統領が「関税は輸出国が払う」と語って、失笑されたが、これはミランの説明の受け売りだろう。

為替相場は貿易収支だけで決まるわけではない。要素は多く、最近は金利差が大きく影響している。ミランの議論は、為替相場理論としても未熟である。

しかし、信念は揺らがない。ミランは上院の承認公聴会で「アメリカの経済史を見れば、高関税の期間と高成長の期間は一致する。高関税で高成長を実現するのは不可能ではない。19世紀の後半、すべての輸入品の平均関税率は30%を超えていた。それでも、この時期は異例なほど高成長の時代だった」と、高関税が高成長に結び付くと証言している。

中岡 望 ジャーナリスト

著者をフォローすると、最新記事をメールでお知らせします。右上のボタンからフォローください。

なかおか・のぞむ / Nozomu Nakaoka

国際基督教大学卒。東洋経済新報社編集委員、米ハーバード大学客員研究員、東洋英和女学院大学教授などを歴任。専攻は米国政治思想、マクロ経済学。著書に『アメリカ保守革命』(中公新書)。

この著者の記事一覧はこちら
ブックマーク

記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
はこちら

印刷ページの表示はログインが必要です。

無料会員登録はこちら

はこちら

関連記事
トピックボードAD
政治・経済の人気記事