トランプ関税の効果と決定の内側(中)立案者の1人は「最も過激な保護貿易主義者」で、もう1人は「貿易戦争のための青写真」を執筆

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ナバロは両親の離婚後、女手一つで育てられた苦学生で、高校時代からいくつもの仕事を掛け持ち、夜はソファーで寝る生活を送っていた。奨学金を得て、タフツ大学に進学後、平和部隊に参加し、3年間タイで暮らしている。帰国してハーバード大学大学院に進学し、経済学博士号を取得した。カリフォルニア大学で教鞭をとっていたが、政治的な野心を持ち続けていた。

2016年の大統領選挙でトランプ陣営に政策顧問として参加したナバロは、その功労から第1次トランプ政権の国家通商会議議長に任命された。第1次トランプ政権内での役割について『Time』誌は「トランプの信念(アメリカは外国に搾取されている)を行動に移すための言葉に置き換え、その主張を裏付けるために政策、方向性、確信をトランプ大統領に提供する役割を果たした」(2018年9月3日、「Peter Navarro Used to Be Democrat. Now He’s the Mastermind Behind Trump’s War」)と伝えている。

また、ナバロ自身は2017年にブルームバーグの取材に対して、「自分の役割は通商問題に対するトランプ大統領の直観を裏付けるような分析を提供することだ」と語っている。

ナバロは仕事面ではもちろん、個人的にもトランプ大統領に忠誠を尽くした。議会乱入事件に関する議会特別委員会への召喚に応じず、4カ月の禁固刑の判決を受け、収監されている。これはトランプ大統領に不利な証言を避けるためで、自分を犠牲にしてでもトランプ大統領を守ろうとしたのである。そうした個人的な信頼関係もあり、ナバロは第2次トランプ政権でも要職に就いた。

6年前から相互関税を主張

ナバロの専門は貿易論で、自身は「最も過激な保護貿易主義者」だ。とくに中国に批判的で、為替操作を行い、劣悪な労働環境下での低賃金政策を取っていると攻撃を加えた。2006年に『The Coming War with China』を出版、アメリカは保護貿易主義を採るべきだという主張を展開しているが、学界では非主流派で経済学の基本原理を無視していると批判されている。

第1次トランプ政権内では、伝統的な経済学者や自由貿易派の閣僚との衝突を繰り返したが、ナバロが勝利し、「アメリカ・ファースト通商政策」を推進した。第1次トランプ政権の“貿易戦争”は、2018年の鉄鋼とアルミニウムへの関税に始まる。2020年には自由貿易を象徴する「NAFTA(北米自由貿易協定)」が保護主義的な「USMCA(アメリカ・メキシコ・カナダ協定)」に作り替えられ、自由貿易の促進が目的だった「米韓貿易協定」も変更された。こうした政策の背後には必ずナバロがいた。その彼が、第2次トランプ政権でも通商政策立案の中心にいる。

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