「多くの場合、2週間に1度の認知行動療法を6カ月くらい続けると、ある程度の成果は出てきます。時間はかかりますが、円滑に生活したいという欲求が、モノをためたいという欲求を上回ってくれば、しめたものです」(中尾さん)
大切なのは「ピカピカな部屋にする」ことがゴールではなく、「普通に生活できるようにする」こと。つまり「キッチンで料理が作れて、居間で座ってテレビを見ることができ、風呂に入れて、普通に眠ることができる」ようになることだ。
業者に頼ってもまた元に戻る
「これらは強制ではなく、あくまで本人の意志に基づくことも重要です。仮に家族や片づけ業者などがきれいにしたとしても、それが無理やり行われたのであれば、1年も経たずに元の状態に戻る可能性が高いです」(中尾さん)
繰り返すが、家にモノがあふれたからといって、すぐに「ためこみ症」と決めつけてはいけない。だがその一方で、中尾さんが指摘するように、社会や医療界ではためこみ症の認知度が低く、医療や支援を受けたほうがいい人が相談機関にアクセスできていないという課題はある。
では、「モノが捨てられず、生活空間を占拠して支障が出ている」ことに心当たりがあったり、そのような人が身近にいたりする場合、どんな相談先があるのだろうか。

「まず、(都道府県や政令指定都市にある)精神保健福祉センターに相談してみてはどうか」と中尾さん。
自治体によっては、役所の「保健福祉課」「環境保全課」のような部署が本人の支援や、近隣住民からの相談に対応するところもある。九州大学病院でも行政との連絡会議を行っているという。
こうした取り組みがあると、医療が必要な人を適切に判断して、早めに医療につなげることが期待できる。
精神科や心療内科を受診するのもよい。その際は「認知行動療法を実施している医療機関を目安に探せば、ためこみ症にも対応できるのではないか」と中尾さんはアドバイスする。
(取材・文/佐賀 健)

中尾智博医師
鹿児島県生まれ。1995年九州大学卒業。「人のこころを扱う精神科の仕事に興味をもち」、同大精神科の門を叩く。英国留学中にためこみ症の研究者のもとでこの病気に対する知見を深めた。初めて当事者の自宅を訪問したのも、ロンドンでのこと。そうした経験から、「日本でも研究、診療が必要だと思うようになった」という。2020年から現職。
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