病気かもしれないと受診した人に対して、中尾さんは初回の診療で「どんなことで困っているのか」「ためこむまでの経緯」「大きなライフイベント(結婚、死別、病気など)」について聞いていく。そのなかで、必ず以下の質問をするそうだ。
「どうしてためこむんでしょうか」
このときに多くの人から返ってくるのは、主に次のような答えだ。
「思い出の品だから」
「いつか使うかもしれないから」
「二度と手に入らないかもしれないから」
「捨てられないので」
「何となく」
どれも突飛な理由ではなく、誰もが考えることだろう。それがなぜ、生活に大きな支障をきたすほどになるのか。中尾さんは「原因は明らかではありません」と前置きしつつ、これまで診た数十人の経験から、次のように見立てる。
「もともと、モノへのこだわりがほかの人よりも強いところに、大きな精神的ストレスが加わって、心を癒やすようにモノへの愛着が過剰になったと考えられます。ストレスとなる出来事としては、幼少期の虐待や親の離婚、親しい人との死別などがあります」
また、経緯はともかく、単身生活が長く続くことで「居住空間を自分のためだけに使えるようになり、モノをためこんでも問題ない状況になってくる」(中尾さん)。そこに社会的孤立が加わるなどすると、モノに対する愛着がさらに高まり、負のスパイラルに陥っていく――そうだ。
考え方や行動のクセを修正していく
話を診療の場に戻そう。
症状や生活上の支障を把握した中尾さんは、問診などを通じて認知症やADHDの有無についてもチェックする。
最終的にためこみ症と確定したら、実際の状況を把握するため、本人にモノをためこんでいる場所の写真を撮ってきてもらうことにしている。それをもとに、ためこみの程度や、部屋がそれぞれの機能(キッチンなら料理ができる、寝室なら寝られる)をもっているかなどを推し量り、重症度を判定する。
そして「すべて必要なモノ」という本人の認識を尊重したうえで、ためこんだモノの量や目的、それぞれの必要度合いなどから、捨てられるモノがないかを本人と一緒に考えていく。自分の考え方や行動のクセ・パターンを知って、それを修正する「認知行動療法」の応用だ。
具体的には、▽重複しているモノは1つを残して捨てる▽思い出の品は、ゆかりのある個人・法人に寄贈する▽有効期限が切れたモノや書類は手放す▽なくても困らないようなモノは手放す――などだ。