Suicaの牙城を崩すか? 専用カード不要で乗車可能、海外客対応とコスト削減で急拡大する鉄道タッチ決済戦略

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また、運賃の上限を一定額に設定する“キャッピング”を導入し、定期券代わりのサービスを提供する事例(福岡市交通局や鹿児島市電など)も増えている。例えば鹿児島市電では1カ月の上限運賃を9660円と定め、それ以上乗車しても料金がかからない仕組みを導入している。専用カードを持たずに定期券相当のメリットを享受できる点で、利用者側のハードルをさらに下げている。

私鉄グループ戦略とSuicaの共存

南海電鉄は「2025年3月に利用駅を拡大し、さらに利用者が増加する」と見込み、「他社局やカード会社と連携した施策を検討中」と明かす。沿線に商業施設やホテルを持つ私鉄グループにとって、タッチ決済導入はグループ内回遊を促し、長年の「電車×商業施設」モデルを強化する手段となり得る。

京阪神では2025年の大阪・関西万博を契機に、南海や阪急、阪神、京阪、近鉄などが一体となりタッチ決済が大きく推進された。こうした連携で、インバウンドを含む幅広い利用者にとって、複数路線の乗り継ぎがよりスムーズになることが期待される。

一方、SuicaやICOCAは定期券やオートチャージなど、日本の高速改札を支える重要な仕組みだ。都市部の通勤・通学利用を考えれば、その地位は当面揺るがない。しかし単発利用やインバウンド旅行者の増加を見越すと、専用カード不要で乗れるタッチ決済のニーズも確実に伸びるだろう。多くの事業者は「自社ICカード+タッチ決済」のハイブリッド戦略で、利用者に乗車手段を自由に選んでもらう方針をとっている。

日本の鉄道における“かざして乗る”文化は今後、クローズドループ型(Suica等)とオープンループ型(タッチ決済)の併存が進むとみられる。特に地方私鉄やローカルバスは導入・運営コストを抑えられるタッチ決済に期待を寄せ、万博を控えた関西圏や厳しい経営環境の地方で普及が加速している。

一方でSuicaも2035年に向けた新たな構想を示しており(関連記事)、その中では後払い式や電子マネーの拡張など、これまでのFeliCa規格にはとどまらない展望も見られる。今後10年の動きの中で、交通系ICとタッチ決済が融合する新しい改札システムのあり方が見いだされる可能性がありそうだ。

石井 徹 モバイル・ITライター

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いしい とおる / Toru Ishii

1990年生まれ。神奈川県出身。専修大学法学部卒業。携帯電話専門媒体で記者としてのキャリアをスタート。フリーランス転身後、スマートフォン、AI、自動運転など最新テクノロジーの動向を幅広く取材している。Xアカウント:@ishiit_aroka

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