Suicaの牙城を崩すか? 専用カード不要で乗車可能、海外客対応とコスト削減で急拡大する鉄道タッチ決済戦略
さらに今田氏はこう続ける。
「よく『クレジットカードを持っていない人は使えないのでは?』という誤解を受けますが、プリペイドやデビットカードでも問題なく利用できます。高校生の娘には家族カードのプリペイドを持たせていて、東急線で定期区間外を移動する際に利用しています。PASMOだと残高確認やチャージが手間ですが、プリペイドカードなら私が残高管理もでき、チャージ機に行く必要もないので便利です」
タッチ決済による経済効果とデータ活用の可能性
インバウンド対応のみならず、鉄道事業者から見たタッチ決済の導入メリットは実に多彩だ。中でも大きいのが、保守コストの高い磁気券(紙のきっぷ)を段階的に廃止できる点だ。今田氏によるとロンドンの地下鉄ではタッチ決済が全体の60%を超えた段階で券売機を削減し、その空きスペースを広告エリアなどに転用しているという。
今田氏は加えて「地方では駅の改札でICカードをチャージできる設備が限られ、券売機で現金をチャージすることが大半」という課題にも言及し、「ICカードのチャージ機を設置・管理するコストや現金管理の手間を考えると、タッチ決済導入によって駅務負担が大幅に減らせる」と指摘する。
地方私鉄や中小交通事業者にとって、IC乗車券導入時のコスト負担はこれまで大きな壁だった。タッチ決済が低コストでのキャッシュレス化を後押しすることになる。

熊本市交通局の資料によれば、「既存IC機器を更新するには約12億円かかるが、タッチ決済ならその半額程度で導入可能」とされている。実際に熊本では、経営環境の厳しさから「全国交通系ICカード」の利用停止を表明し(2024年11月15日で終了)、地元独自のICカード「くまモンのICカード」とタッチ決済を両立させる形へ移行する動きが進んでいる。WILLERも導入コストの低さを重視したように、地方交通がデジタル化を進める切り札としての役割は大きい。
私鉄各社がタッチ決済を積極的に採用する理由のひとつに、グループ全体の経営戦略との親和性も挙げられる。今田氏は「私鉄は鉄道で街づくりをし、その街の商業施設をグループで運営する形態が多い」と説明し、「グループ内の移動や消費をタッチ決済一つで完結させれば、利用者を囲い込む手段として機能する」と付け加える。
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