トランプの「エネルギー支配外交」を支える思考法 アメリカ社会を分断した「世界の政治経済構造」

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冷戦終結後の1990年代、石油価格は低位で安定していたが、2000年代に入ると、中国の経済成長によるエネルギー需要の急増により、石油価格は再び高騰した。

しかし、2008年の世界金融危機を受けて、FRB(アメリカ連邦準備制度理事会)が量的緩和を実施すると、金利の極端な低下により、高利回りを求める資金がシェールオイル開発企業へと流れ込み、シェールオイルの生産が増加した。

これにより石油価格が低下し、インフレ率も抑制されたため、FRBは量的緩和を延期せざるを得なくなった。こうして、2008年の世界金融危機の結果、アメリカの金融力とエネルギー力はむしろ高まった。

特に中国は、経済成長により海外エネルギー依存度を高め、また、グローバルな市場に組み込まれたことで、アメリカの金融力の影響により脆弱になったのである。

アメリカの金融力とエネルギー力は高まったが、しかし、その軍事力は相対的に低下し、さらに国内政治は混迷している。これが意味するのは、アメリカ国内の混乱が、その金融力とエネルギー力を通じて、世界中を振り回すことになるだろうということである。

グリーンエネルギーという不確定要因

あらかじめ断ったように、以上は、トンプソンによる分析のごく一端を要約したに過ぎない。しかし、これだけでも、彼女が複雑な因果関係を丹念に分析する能力に長けていることが伝わるのではないだろうか。

誤解を恐れずに、トンプソンの歴史的分析をさらに約言するならば、2016年のブレグジットやトランプの大統領選勝利、2022年のロシアによるウクライナ侵攻の原因は、1960年代から70年代にかけて、エネルギーを巡って生じた世界の政治経済構造の亀裂に求めることができるということである。

そして、2020年のCOVID-19のパンデミックに伴う混乱は、その構造的亀裂を可視化した現象である。この構造的亀裂は1980年代から90年代にかけては比較的顕在化していなかったが、それは、エネルギー価格が低位で安定し、そのおかげで経済が比較的好調だったからである。

このエネルギーを軸に回転する世界の地政経済学的構造に、近年、新たな不確定要因が加わっている。

言うまでもなく、グリーンエネルギーである。グリーンエネルギーは、気候変動対策の切り札とみなされているが、これもまた表面的な解釈に過ぎない。その背後には、当然、エネルギーを巡る各国の地政経済学的利害が横たわっているのである。

しかも、グリーンエネルギー投資は、世界の地政経済学的構造をより複雑かつ深刻にする可能性がある。

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