トランプの「エネルギー支配外交」を支える思考法 アメリカ社会を分断した「世界の政治経済構造」

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まず、グリーンエネルギーの推進は、今のところ、化石燃料にとって代わるどころか、むしろ、その投入に頼る結果となっている。生産のオフショア化により、電気自動車などの生産は、先進国の国内ではなく、化石燃料に依存するアジアで行われるからである。したがって、化石燃料が生み出してきた地政経済学的力学は、当面、残存するであろう。

しかも、グリーンエネルギーは、レアアースという希少資源を産出する中国への依存度を高めるので、新たな地政学的問題を生み出す。さらに、グリーンエネルギーへの投資が、一部の企業や投資家たちを儲けさせる一方で、それが国内の雇用をそれほど創出せず、エネルギーのコスト高を招いて労働者階級を苦しめるならば、社会の分断はいっそう深刻化するであろう。

2025年に再びアメリカ大統領となるトランプは、前任のバイデンとは異なり、グリーンエネルギーを軽視し、国内の化石燃料の生産を増やすことで、インフレを抑制するとともに、アメリカのエネルギー力を強化しようとしている。これが、世界の地政経済学的構造に何をもたらすのか。我々は、本書から学んだ視点に立って、注意深く観察すべきであろう。

日本のエネルギー戦略を見直すための視座

本書は、世界の政治経済構造を俯瞰したものであり、また、著者がイギリスの研究者ということもあって、ヨーロッパとアメリカの分析に多くを割いており、日本に対する言及はわずかである。

しかし、日本の読者であれば、本書のもつ重大な意味は、痛いほどよく分かるであろう。エネルギーの大半を海外に依存せざるを得ない宿命を背負った日本は、太平洋戦争を端的な例として、世界のエネルギーを軸とした地政経済学的構造に翻弄されてきた国だからである。

昨今、日本国内では、原子力発電の再稼働、核廃棄物の処分地の選定、電気・ガス料金に対する補助、グリーンエネルギー投資の促進など、エネルギー問題が大きくクローズアップされている。

このエネルギー問題が、国内、そして世界の地政学的力学、金融、民主政治、そして国民国家にどのような影響を与え、そしてこれらからどのような影響を受けるのか。

トンプソンに学んだ歴史的・巨視的な観点から、日本のエネルギー戦略を今一度、見直してみる必要があるだろう。

中野 剛志 評論家

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なかの たけし / Takeshi Nakano

1971年生まれ。東京大学教養学部卒業後、通商産業省(現・経済産業省)に入省。2003年にNations and Nationalism Prize受賞。2005年エディンバラ大学大学院より博士号取得(政治理論)。主な著書に『日本思想史新論』(ちくま新書、山本七平賞奨励賞)、『富国と強兵』(東洋経済新報社)、『TPP亡国論』(集英社新書)、『政策の哲学』(集英社)など。主な論文に‘Hegel’s Theory of Economic Nationalism: Political Economy in the Philosophy of Right’ (European Journal of the History of Economic Thought), ‘Theorising Economic Nationalism’ ‘Alfred Marshall’s Economic Nationalism‘ (ともにNations and Nationalism), ‘ “Let Your Science be Human”: Hume’s Economic Methodology’ (Cambridge Journal of Economics), ‘A Critique of Held’s Cosmopolitan Democracy’ (Contemporary Political Theory), ‘War and Strange Non-Death of Neoliberalism: The Military Foundations of Modern Economic Ideologies’ (International Relations)など。

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