「アリ戦の後、猪木さんは控室で泣いていたな」 藤原喜明が振り返る「永遠の師匠」の生き様

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ドン荒川さんも「猪木さんのためなら命を張る」というようなことを言っていたことがあるけど、あの人はうまいこと生き延びそうな気がするな(笑)。

前田は俺らとはちょっと違うけどあいつも純粋で、猪木さんも前田をかわいがっていたよ。

昔、猪木さんが写真週刊誌に撮られたことがあって、相当頭にきたんだろうな、バキュームカーを手配して出版社に横づけしてクソをぶっかけようとしたことがあったんだよ。すげえことを考えるよな。

その時、「私が行きましょうか? 懲役が半年くらいだったら行ってきますよ。半年以上はちょっと嫌ですけど」って言ったら、猪木さんはなんと言ったと思う? 「ありがとう。でも行かなくていいぞ」だった。

まあ、鞄持ちをやっていた頃、猪木さんの盾になろうと思っていたのは本気だったよ。猪木さん自身が命懸けでプロレスの地位を向上させるために闘っていたからね。

アリ戦後、控室で泣いていたアントニオ猪木

だから俺が観てきた猪木さんの最高の試合はアリ戦だよ。プロレス史上、あとにも先にもあれ以上の緊張感がある試合はないだろう。あんな最高の試合を1度観たら、もう他の試合は観られなくなるよ。

俺はあの試合、セコンドとしてリングサイドのいちばん近くから観ていたんだ。猪木さんはいいコンディションをしていたよ。

あの極限の緊張感のなか、3分15ラウンドを闘い抜いたんだからたいしたもんだよ。

当時、あの試合についてボロクソに言うヤツがたくさんいたけど、そいつらは何もわかっちゃいない。猪木さんはアリを倒すために、最後の最後まで必死に闘っていた。心から勝ちたいと思っていたからこそ、ああいった闘いになったんだよ。

試合後、控室をシャットアウトにして俺と猪木さんだけになった時間があった。猪木さんは黙って下を向いてたよ。最後のほうでは泣いていたな。

俺もどうやって慰めていいかわからないから、少し離れたところで直立不動で立っているだけだった。

もうあれから49年も経ったのか。間違いなくあれは、生きるか死ぬかの闘いだったよ。

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