宇宙飛行士が50代を前に直面「行き詰まり」の苦悩 野口聡一さんが転職を自分事に感じ始めたとき
それでも、官僚的な管理組織に負けたくない、ここでめげていては周りでサポートしてくれているメンバーをがっかりさせてしまうという気持ちでなんとか踏みとどまっていました。次に飛ぶ新人宇宙飛行士もいる。そういう人たちをサポートして宇宙へ送り届けなくてはいけない。
非常にマイクロマネジメントな上司だったので、これはしんどいなと思いつつも、ここで頑張らないと次の人たちにつながらないなっていう思いがあって、ここに留まるべきか、身を引くべきか悩みを抱えるようになっていました。
半径5メートルの閉塞感
2回のフライトがもたらした達成感の後、次の目標を失いかけ、燃え尽き感が襲ってきたと言いましたが、実際のところは、燃え尽き感というよりも、モヤモヤ感というか、閉塞感にさいなまれていた、と表現した方が正確なのかもしれません。
今でも鮮明に覚えているその行き詰まったモヤモヤ感は、職場環境をつくる「人」そのものが生み出していました。
他人との距離の取り方を分析したアドラー心理学になぞらえると、人の悩みはすべて人間関係の悩みであり、しかも半径5メートル内の距離で生じると言っても過言ではありません。
大きな人類愛について悩む人はなかなか少ないものです。
実際の悩みの種は、自分の周り半径5メートル以内でデスクを並べている同僚かもしれない。直属の上司、あるいは部下かもしれない。日本みたいに非常に人口密度が高い職場では、これが悩みを生み出す支配的な理由になってくるのです。
私の場合、16年にわたってアメリカの有人宇宙事業の最前線で現場気質にどっぷりはまって過ごしてきました。でも帰国してみると、JAXAの職員は、そもそもみなし公務員であり、良くも悪くも日本の官僚主義を色濃く残していたのです。
マズローの「欲求5段階説」をご存じでしょうか。5段階の上位の方に、承認欲求があります。自分がやっていることをちゃんと認めてほしいという欲求。私が燃え尽き感にさいなまれたとき、この承認欲求が非常に阻害される状況でした。

承認欲求の一つ上に、自己実現の欲求があります。自分自身、こうありたいという欲求。ここにたどり着くのが理想的な姿ですけれども、その1歩手前の「良くやっているんだから、認めてほしい」という承認欲求が満たせない。そうすると「いつまでこんなことやってんだ」って気持ちになりますよね。
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