宇宙飛行士が50代を前に直面「行き詰まり」の苦悩 野口聡一さんが転職を自分事に感じ始めたとき

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それに、今でいうところの経済安全保障の観点から、日本人などの外国人宇宙飛行士がアメリカの最新の宇宙技術に関われる余地はなくなってしまいました。

結果的に、2012年ごろから現役宇宙飛行士としてのポジションを維持しつつ、日本に戻ってJAXAの管理職としてデスクワーク中心の業務に就くことになりました。16年ぶりの日本での会社員生活です。
そこで、私は行き詰まってしまったのです。

組織管理優先の弊害

私はアメリカ滞在中、NASAのジョンソン宇宙センターがあるテキサス州ヒューストンを生活の拠点にしてきました。この宇宙センターには有人宇宙飛行の訓練・研究施設があって、アメリカおよびその協力関係にある外国出身の宇宙飛行士の訓練を担っています。

私はここで飛行訓練に励み、あるいはNASAから与えられたミッションとその成果について関係者とブリーフィングを行う日々でした。ですから、常に宇宙飛行の第一線にいる職場環境にありました。

ところが、2度目のフライトが終わり、日本のJAXAに戻ってくると、基本的にデスクワーク中心。講師や指導役を務め、有人宇宙活動をやっている部門の中間管理職的な仕事を任されることになりました。

当時、JAXAでは現場重視だった上司が外れ、経営重視の上司に交代していました。

やがて、現場が軽視されて経営企画部門が重用されるようになり、マイクロマネジメント(部下の行動を細かく管理すること)が支配的になり、現場のタイムリーな判断が制約される風潮がみられるようになりました。

社内文書の「てにをは」チェックに始まり、稟議が激増して現場が疲弊。矜持を持って宇宙事業に取り組んでいるのに、マイクロマネジメントに振り回される理不尽さを感じる日々でした。

私は大学卒業後、いったんは石川島播磨重工業(現在のIHI)に就職して一介の技術者として会社員生活を経験しています。ですから、こういう日本型の組織運営について理解はしているつもりでした。

しかし、2度目のフライトを経験した時点で、アメリカ、ロシア、ヨーロッパの各地でトータル13年くらい仕事をしていましたから、日本特有の組織に縛られる風土に異常性を感じ、気になって仕方ありませんでした。
これが、行き詰まりを意識した最初のきっかけの一つだったのです。

次ページ閉塞感の元凶は「半径5メートル以内」にある
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