起こるべくして起きたVW「排ガス不正」の真相 閉鎖的なのは役員会だけではなかった

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フェルディナント・ピエヒの影響力の強さの証として、2012年にその4人目の妻ウルズラ・ピエヒが監査役に選出されたことがある。幼稚園の教師だったウルズラは、ピエヒ家の家庭教師を務めたのちにフェルディナントと結婚したという人物だ。多くの株主は彼女には資質と独立性が欠けていると抗議したが、彼らはほとんど影響力を有していない。議決権のある株式の半分以上はポルシェ家とピエヒ家の面々が保有し、彼らは親族間の合意の下にひとつの株主ブロックとして議決権を行使する。

強い権限をもつ監査役会執行委員会の定員5名のうち3名は労働側代表で、監査役会メンバーの半数も組合役員と労働側だ。残る半数のうち2名は議決権の20%を握るドイツ北西部ニーダーザクセン州の政府が指名する。また2名は17%の議決権をもつカタールの政府系ファンド(SWF)のカタール・ホールディングの代表が務める。さらにピエヒ・ポルシェ一族が5名、企業幹部1名という構成だ。

この監査役会は、外部の意見が入り込むすきはなさそうな小さな輪として「エコー・チェンバー化」しているとエルソンは言う。

隔絶された世界

筆者は今週、VWの元幹部に話を聞いた。とりわけ排ガス関連のスキャンダルはほぼ不可避だったと彼も言う。企業として周囲から遮断され、役員会が排他的であることに加えて、社内のエンジニアたちに環境規制に対する根深い敵意があったというのだ。

今は競合他社で働くその元幹部は匿名を条件に語った。VWの本拠地ニーダーザクセン州ウォルフスブルクは住民一人当たりの所得がドイツ国内で最高水準にある。そして隔絶された町という意味で、自動車産業が全盛期だったころのデトロイトを上回るほどだという。「経済のすべてが自動車だ。住民は自動車とその環境に及ぼす影響について無批判でいる。なぜなら全員が自動車業界で生計を立てている」。

しかも「経営側と組合側がVWのように密接な間柄の会社はほかにない」という。VWは「監査役会の過半数に仕事を保証している。経営側も政府も組合側も完全雇用を願っている。雇用は多ければ多いほどいい。VWはドイツ国民に雇用を提供するという使命を担うものと見なされている。だからこそ世界一を目指す。何でもありなのだ」。

雇用の拡大には成功してきた。VWによると昨年は60万人近くを雇用して約1000万台を生産した。それに比べると業界2位のトヨタは34万人で生産台数900万台弱だ。

ただしエルソンに言わせると、雇用の最大化を第一目標とすべきではない。監査役会の目的は、投資家のために経営を監視すること、そして企業としての長期的な健全性と利益性を確保することにある。「経営側の目標は自身の雇用を保つことにあり、組合側の目標は雇用と諸手当を守って増やすことにある。根本的な対立だ」。

この点ではVWもドイツ国内の大企業各社と同様だ。ドイツでは共同決定(ミットベスティムンク)という政策の下、企業の監査役会には労働側と株主側が同数参加することを求められる。この方式はユーロ圏のその他の国々やドイツ企業に投資する外国の年金基金から批判を浴びてきた。今回のスキャンダルをうけて変更を要請されそうなものだが、ロートはそう見ていない。「労組は争いもせずに共同決定を手放したりしない。国民も馴染んでいる」。

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