起こるべくして起きたVW「排ガス不正」の真相 閉鎖的なのは役員会だけではなかった

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これまでVWは特に環境問題について動きが鈍い。主要各社に比べて電気自動車やハイブリッドカーのエンジン技術への投資が少なめだ。「ドイツ人の間には、排出量問題で米国が自動車業界を標的にするのは不公平だという見方がある」とロートは言う。「電気自動車のために石炭火力発電所で発電するようでは得るものがない」。

VW元幹部の話では、エンジニア主導の社風ゆえにもう一歩踏み込んだ考え方もある。エンジニアたちは政治家、特に米国の政治家の鼻持ちならない偽善だと感じているというのだ。発電所で化石燃料を使用するかぎり電気自動車など無意味だと、彼らは文句を言う。「自分たちがいちばんよく分かっているという優越感がある」。

それでもVWも環境法制に従うべきだと主張したところで、ロートによればウォルフスブルクの町の人たちは聞く耳を持たない。売り上げ1位を目指すことのほうが大切なのだ。排ガス規制回避のソフトウェア問題も、米国におけるディーゼル車の拡販が動機だったという見方が多い。

そんな姿勢はVWに限ったことではないし、ほかの自動車メーカーでも規制回避はしたくなるかもしれない。とはいえVWには社外役員が不足しているため、特に外部から隔離状態だった可能性がある。

財務上の危機迫る

スキャンダルは今なお展開中だ。VWが被る損害を思うと、企業統治の姿勢や取り組み方に変化を強いられるかもしれない。

これから膨大な数の調査や訴訟に立ち向かうことになるのだ。そのために73億ドルを用意したというが、とても十分には思えない。裁判費用などは十億ドル単位を超えるだろうし、米環境保護局(EPA)だけでも最高180億ドルの制裁金を科す恐れがある。対象車1100万台のリコールについても検討が必要だ。なにしろ車の性能を落とすことなく問題のソフトを削除して排ガス基準を満たせるという方法はまだ明らかでない。

9月18日、EPAが調査について発表する前のVW株価は約160ユーロ(180ドル)だった。その後30%ほど値下がりし、260億ドル以上の時価総額を失った。

VW広報担当は同社の企業統治に関してコメントすることを拒んだ。

閉鎖的な体制でスキャンダルを柔軟に乗り切ることができるか、答えが出るのはこれからだ。財務面で痛手を負い、会社の評判が落ち、長期的に存続できるかどうかが問われる。

エルソンはVWは消滅しないと信じている。「投資家からはあまり信頼されない。きっと切り抜けるだろうとは思うが、ドイツ政府が救済せざるを得ないということになっても決して不思議ではない」。

(執筆: James B. Stewart記者、翻訳: 石川眞弓)
© 2015 New York Times News Service

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