そのプーチン氏の目指す国家像「正教大国ロシア」は、アメリカが主導してきたグローバリズムとは決して相容れない関係にある。プーチン氏は、アメリカの野心と世界支配を維持しようとする企みの代償を世界は払わされてきたと批判してきた。
だが、グローバリズムではなくアメリカ・ファーストを掲げるトランプ氏が大統領に就任したことで、アメリカとロシアの関係は変質していく可能性がある。
トランプ氏はウクライナ戦争の終結に向け、ウクライナとロシア両国との対話を進めている。氏の行動は、欧州の戦争に巻き込まれず、自国民の保護・経済的発展を優先するというアメリカの伝統的な考え方に回帰している。
トランプ氏は2月7日の日米首脳会談で、在日米軍駐留経費の日本側負担(思いやり予算)の増額要求はせず、「核を含むあらゆる能力を用いた日本の防衛」に対するコミットメントを表明した。
しかし冒頭でも述べたように、アメリカ・ファーストで核軍縮を進めていくトランプ氏が、自国ではなく他国の為に、核抑止に積極的な姿勢を見せるだろうか。全面戦争につながるリスクを冒してまで核の傘を提供するとは考えられない。
多くの「核実験被爆国」の存在
以前、河野克俊元統合幕僚長が、アメリカが日本に提供する核の傘(拡大抑止)について「アメリカが『心配しなくても大丈夫だ』と言っても本当かなという疑念がかすめる」と述べたことがある。トランプ氏の存在によって、戦後日本が依拠してきた「核の傘」が、やはり「破れ傘」であることが明白になった。
もうひとつ日本人として押さえておきたい事実がある。日本は「唯一の『戦争』被爆国」であるが、「唯一の被爆国」ではない。
1945年8月、広島と長崎に原爆が投下される3週間前に、アメリカ・ニューメキシコ州で人類初の核実験が行われている。それ以降、米・英・ソ・中・仏が行った核実験は現在まで2000回を超えている。イギリスはオーストラリアや太平洋の島国で、ソ連は現在のカザフスタン、中国は新疆ウイグル自治区で、フランスはアルジェリアや南太平洋の仏領ポリネシア・タヒチで核実験を強行してきた。
戦前、日本の統治下にあったマーシャル諸島は、戦後、国連とアメリカが管理した信託統治時代の12年間に、アメリカによって67発の核兵器実験地となっている。ビキニ環礁では日本のマグロ漁船・第五福竜丸をはじめ1000隻以上の漁船が被曝した。
核実験は多くの場合、旧植民地や先住民族の暮らす地域で行われた。軍事機密という理由で情報開示もろくに行われていないため、実験地で暮らしていた人々には健康被害に対する補償すら充分に提供されていない。
世界にはいくつもの「実験被爆国」が存在し、多くのヒバクシャが今も苦しみ続けている。「戦争被爆」であろうが、「実験被爆」であろうが、人間としての尊厳が踏みにじられていることに変わりはない。
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