これほど大きな変化が起きている世界で、現場力だけで正しい方向付けができるはずはない。個々の企業内部で対応できなくとも、市場が適切に機能していれば、対応できなかった企業が退場し、新しく誕生した企業がそれに取って代わる。アメリカでは、このような変化が経済を大きく変えている。日本では、そうした新陳代謝も起こらない。現在の日本のリーディングカンパニーの多くは、60年代にもリーディングカンパニーであったものだ。
「日本には、下士官レベルには優秀な人材がいるが、戦略決定ができる最高指揮官レベルがいない」といわれる。いま求められるのが、まさに後者である。
ケインズは、「正確に誤るよりは、およそ正しくありたい」と述べた。いくら速く走れても、走る方向を間違えていれば、無意味であり、有害でさえある。方向を決めるのがトップだ。強いトップを持たず、現場力が強い日本の製造業は、正確に誤りつつあるようである。
早稲田大学大学院ファイナンス研究科教授■1940年東京生まれ。63年東京大学工学部卒業、64年大蔵省(現財務省)入省。72年米イェール大学経済学博士号取得。一橋大学教授、東京大学教授、スタンフォード大学客員教授などを経て、2005年4月より現職。専攻はファイナンス理論、日本経済論。著書は『金融危機の本質は何か』、『「超」整理法』、『1940体制』など多数。(写真:尾形文繁)
(週刊東洋経済2012年2月11日号)
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