(第34回)正確に誤るよりは、およそ正しくありたい

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東日本大震災のときにも、政府の指示はお粗末だったが、末端行政組織が適切に行動したと評価された。福島原発の事故に際しても、本社からの海水注水中断指示にもかかわらず、現場の所長が独断で注水を継続したことが、結果的には正しい行動だったとされた。

ただし、以上は、組織が全体として進むべき方向が、所与の場合だ。企業や組織の戦略が正しく、かつ変化しないことが暗黙の前提とされ、そうした条件の下での、個々の事案に対する処理だ。これは、まさに「カイゼン」が有効な状況である。

製造現場が独走するのはトップが弱いから

しかし、「組織が何を行うべきか」という決定は、以上で述べた決定とは性質が異なる。

ナポレオンがロシアに兵を進めたのは、彼自身の判断である。前線からの意見を吸い上げた結果ではない。クトーゾフが軍のあらゆる部局からの反対を排してモスクワ防衛を放棄し、モスクワを空にして撤退したのも、彼自身の判断である。

これらは戦略的判断だ。戦場で、個々の情勢に即応する兵の行動や、現場指揮官の戦術的判断とは異なる。

トルストイは、不思議なことに、このレベルの判断の重要性について言及していない。仮にモスクワ防衛部隊の指揮官が、クトーゾフの命令に抗して、「最後の一兵までモスクワを防衛する」と主張したとしたら、ロシアはナポレオンに敗れていたかもしれない。この場合には、前線の状況を必ずしも斟酌していないクトーゾフの判断が正しかったのだ。

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