八潮市の陥没が暗示する「流域下水道」の時限爆弾 陥没復旧を長期化させる水との闘い【後編】

✎ 1〜 ✎ 13 ✎ 14 ✎ 15 ✎ 16
著者フォロー
ブックマーク

記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
はこちら

印刷ページの表示はログインが必要です。

無料会員登録はこちら

はこちら

縮小

流域下水道に対して異論を唱える専門家は、この方式が採用され始めた黎明期からいた。今では忘れられつつあるが、各地で反対運動も起きていた。

産業技術総合研究所名誉フェローで横浜国立大学名誉教授の中西準子氏は、『下水道 水再生の哲学』(朝日新聞社、1983年)の中で、次のように指摘している。

「下水道は市町村固有の仕事であり、市町村ごとに下水処理場がつくられてきたが、市町村合同の巨大な流域下水道が昭和40年からつくられるようになってきた。この流域下水道の建設には、一人分の下水を処理するのに単独公共下水道の倍近い経費がかかっている」
「『処理場』という観点からは巨大なほど経済的であると考えられる。しかし、流域下水道には市町村を結ぶ太い管渠が必要であり、これに大変なコストがかかってしまう」

中西氏は、こうした課題を踏まえ、(1)流域下水道を取りやめて単独の公共下水道とすること、(2)人口減少地域では合併浄化槽を活用すること、(3)農村部では簡易な処理方式を採用すること――を40年以上も前に提言していた。

現在、日本は人口減少が進み、下水道の維持管理費が増加し続けている。今回のような事故が起きれば、点検・調査の頻度は増え、修繕にかかる費用も増え続けるだろう。地下をはう“巨大な龍”を私たちは、はたしてコントロールし続けることができるのだろうか。中西氏の指摘は今後ますます重要性を増すだろう。

現状のリスクをいかに低減するか

とはいえ、実際問題として流域下水道は全国各地に敷設済み。そして、中川流域下水道と同様、老朽化や腐食の悩みを抱えている。

腐食のおそれの大きいマンホールや管渠、その点検情報は公表され、国土交通省のウェブサイトで見ることができる。「令和5年度下水道管路メンテナンス年報」によると、流域下水道における腐食のおそれの大きい管渠は全国に879キロメートルあるという。

次ページ47都道府県の腐食のおそれが大きい箇所リスト
関連記事
トピックボードAD
ライフの人気記事