今回の事故を機に、流域下水道のリスクを再評価し、適切な対策を講じる必要がある。例えば、以下のような対策が考えられるだろう。
① 事故の影響を最小限にするための「分散化」
処理場の完全分散化はコストや用地確保の課題があるため、部分的な分散処理の導入が考えられる。例えば、地域ごとに小規模処理場や一時的な排水貯留施設の整備を行う。電力や通信インフラで採用される「冗長化」の考え方を下水道にも適用し、障害時の影響を最小限にする。
② バイパスルートの確保
緊急時に下水を別ルートへ流せる仕組みを整備する。都市部では地下スペースが限られているため、既存管路や調整池を活用する。例えば、東京23区では「環状的な幹線管路」を活用し、一部の処理場が機能しなくなっても対応できる仕組みがある。
③ 予防的なメンテナンスの強化
劣化や破損の早期発見に向け、センサー、ドローン、AI(人工知能)などの最新技術の活用も進められている。これらの技術を使って下水道管の状態を定期的に監視することで、リスク箇所を正確に特定できるようにもなっている。
都市と地方に切り分けた対応が必要
ただ、先を見据えると、下水道のあり方そのものの議論が必要になるだろう。下水道の役割は「衛生的な暮らしを守る」「水環境を守る」「浸水から守る」などだ。整備された下水道は、人々の日常生活や社会経済活動を支える「街の生命維持装置」であり、1日たりとも機能停止が許されない社会基盤である。これを災害増加・人口減少の時代にどうアップデートしていくか。
能登半島地震の長期間の断水の教訓から、水道では、都市型の大規模集中型の仕組みだけでなく、井戸などを活用した小規模分散型の仕組みが注目された。都市部では現在の水道を維持しつつ、人口減少が進む地域ではコストが安く維持管理の容易な小さな仕組みに切り替えていこうというわけだ。
同じことは下水道にもいえるのではないか。都市部では流域下水道を維持しつつ、人口減少地域では小さな下水道や合併処理槽などに切り替えていく。下水道の役割が担えれば、手段は多様であっていい。機能停止が許されない社会基盤であるからこそ、レジリエンス(強靱性)の高い仕組みへのアップデートが求められている。
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