日本は「新築信仰が強い」と言われる一方で、街を見渡せば存在感や色気のある年嵩を重ねた建物がそこかしこにある。新しいかっこいい建物もいいけれど、今ある古い建物を長く使うのはもっとかっこいい。本連載では、さまざまな工夫で新たな住まいや仕事場となったり、文化的拠点に生まれ変わっている“廃居”を紹介していく。
今回は福岡市にある築66年の「冷泉荘」。一時期はスラム化した物件は、いかにして文化財になったのか。
1958年の建設当初は高額物件だった
今でこそリノベーションは当たり前の選択だ。だが、25年前、福岡で築41年のまったく手入れされていない建物の経営を引き継いだ吉原勝己さんは途方に暮れた。
漏水を入居者が放置、室内に苔が生えている部屋があるなど建物が荒れているだけでなく、入居者、建物に出入りする人達にも問題があったのだ。どうしたら再生できるか。苦闘が始まった。
今から四半世紀前、化学系のメーカーに勤務していた吉原さんが継いだのは博多で最初に栄えた川端通商店街の1本裏手にある冷泉荘をはじめとする数件の不動産。
もともとは農業をしていた父が戦後観光旅館を始め、その収益を使って不動産経営に転身したそうで、知らない身からすると不動産の相続はうらやましい気がするが、それが廃墟状態だったらどうだろう。
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