築66年「スラム化した廃墟」の驚くべき大変身 「九州リノベ」の金字塔、冷泉荘が放つ存在感

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所有者としては入室して5秒と我慢できないような悪臭を放つ部屋も、公安から目を付けられるような部屋もお断りである。近寄ってはいけないと言われるような建物はさらにうんざりだ。

だが、それまでサラリーマンだった吉原さんには、建て替えのために借金をする発想はなかった。とりあえず、なんとか使い続けるしかない。そこで海外も含めて古い物件を使い続ける事例を本で探し始めた。会社に勤務していた頃から情報収集は仕事の一部だったそうだが、この時期、リノベーションに関する情報は少なかった。

日本にも「新しい風」が吹き始めていた

しかし、面白いことに吉原さんがほかに引き継いだマンションでリノベーションなるものを試してみようと思った2003年前後は日本の賃貸住宅、デザインに大きな変化があった年だった。

2006年に良品計画に買収されるIDÉEが最初で最後のデザイナーズ賃貸住宅を建てたのが2003年。2020年に閉館した日本のデザインホテルの草分けと言われる目黒通りの「Hotel CLASKA」がリノベーションを経て開業したのも同じ年だ。個性的な賃貸住宅を扱う東京R不動産が活動を始めたのもこの時期である。

「世界には廃墟状態のビルを美しく改修、使い続ける事例がありましたし、日本でも数は少ないものの古い建物を使う活動、デザインを重視する商品が生まれ始めており、それらを参考に素人ながらデザインができる人たちに他物件の空室の改修を依頼しました」

冷泉荘の前で吉原さん。個性的な入居者が集まっていることでも知られる(写真:筆者撮影)

「空室が出たら改修して貸す」ということを1~2年繰り返しているうち、きちんと手を入れてリノベすることで家賃は上げられるという手ごたえを感じるように。家賃を少しずつ上げていければ、そこで生まれる収益で建物に手を入れられるようになり、古い建物を使い続けられるようになる。このやり方なら廃墟を再生できるかもしれない。

そこで2004年からは冷泉荘を空室にする作業を始めた。入居者に近隣物件を紹介し、引っ越し代を出して退去してもらったのだ。マフィアの退去には警察にも協力をしてもらい、1年かけて全室を空にした。

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