築66年「スラム化した廃墟」の驚くべき大変身 「九州リノベ」の金字塔、冷泉荘が放つ存在感

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ギャラリー、劇場、ライブ会場などと多様に使える会場だけに周囲に迷惑をかけないように使うためには事前の打ち合わせや根回しも必要で、毎回、手間がかかる。さらに毎月1号出している『月刊冷泉荘』を編集したり、イベントのPRも手掛けている。

管理人の杉山さん。左側に見えているのは耐震補強のブレース。あえて見せている(写真:筆者撮影)

杉山さんの常駐以降、ようやくハードとソフトの連携が取れ始め、それからの冷泉荘は外部からも評価され始めるようになる。2010年に文化発信拠点「リノベーションミュージアム冷泉荘」というコンセプトを掲げてから福岡市都市景観賞の活動部門賞の受賞(2012年)を皮切りにさまざまな賞を受賞。

今では市の観光ガイドはもちろん、民間のガイドブックでも観光名所の1つとして紹介されるようになっており、イベント以外でも建物の見学などに訪れる人が増えた。2024年には戦後に誕生した民間の賃貸住宅として初めて国の登録有形文化財にもなった。

九州各地で広がる「廃墟再生」の動き

それだけではない。吉原氏が古い建物の可能性を布教(!)し続けたことで築年数の古いビル、廃墟を再生しようという動きは九州各地に広がっている。

2014年以降九州では毎年11月に「九州DIYリノベWEEK」というイベントが吉原氏の先導で始まり、九州を中心に日本各地の活動が報告されている。参加しているのは、福岡市はもちろん、久留米市、柳川市、大牟田市や熊本県熊本市、玉名市、長崎県長崎市、鹿児島県南九州市など18エリア。

活用した遊休不動産は2024年の時点で267棟、設立された民間まちづくり組織は29組に及んでおり、九州の空き家問題、地域再生を語る上では欠かせない存在となっているのである。

もともとは経営難の賃貸住宅をどうするかから始まった個人的な挑戦だったが、続けているうちに社会の課題とシンクロ。大きな意味を持つようになったわけで、今ではDIY可や原状回復不要、定期借家契約利用など吉原さんが試してきた手法は廃墟再生、不動産の立て直しでは当たり前に行われるようになった。時間と知恵次第で廃墟も蘇ることが実証されたのである。

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中川 寛子 東京情報堂代表

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なかがわ ひろこ / Hiroko Nakagawa

住まいと街の解説者。(株)東京情報堂代表取締役。オールアバウト「住みやすい街選び(首都圏)」ガイド。30年以上不動産を中心にした編集業務に携わり、近年は地盤、行政サービスその他街の住み心地をテーマにした取材、原稿が多い。主な著書に『「この街」に住んではいけない!』(マガジンハウス)、『解決!空き家問題』(ちくま新書)など。日本地理学会、日本地形学連合、東京スリバチ学会各会員。

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