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「脱サラしたプロ棋士」1年半で見た"棋界のリアル" 小山怜央四段が直面した、厳しさと凄みの日々

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  • 野澤 亘伸 カメラマン/『師弟~棋士たち魂の伝承』著者
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「それはもちろんありますけども、これで引退の心配がなくなったという安堵感が大きかったです(笑)」

NHKでの放送は予想以上に反響が大きく、たくさんの人から応援と祝福の声が届いた。来期はさらなる飛躍を誓いたいところだが、会社員を経験してきた棋士はどこまでも謙虚だ。

「最初は様子見という感じですね。意識が高くない言い方になってしまうのですが、自分で言ったことが嘘になるのが嫌なので、目標は掲げたくない。長く続けるために自分なりに頑張っていきたいです」

(筆者撮影)

「ベテランの底力」を味わう

棋士は現役生活が長いため、公式戦で親子ほど歳の離れたカードも珍しくない。体力や勢いに優る若手が有利なのだが、スポーツの世界と違って、頭脳勝負ではベテランが若手をねじ伏せることもある。

泉正樹八段はすでに還暦を超えた棋士だ。かつては順位戦などで活躍した実績を持つが、現在はフリークラスで勝率も低迷していた。順位戦参加資格を得たばかりの小山とは対照的な立場である。昨年秋に2人は王座戦予選で対戦した。

王座戦は持ち時間の長い棋戦で、終局までに10時間以上を要することが多い。膨大な読みを続ける作業は、数学の難問を1日中考えるようなもので、夕刻過ぎには脳の疲労はピークに達する。AIと違って人間の勝負は消耗戦なのだ。

丁寧に指し続けた小山は、局面を「自分が少し指しやすい」と感じていた。しかし、夕食休憩前に小さなミスが出た。将棋の怖さは、1日かけて積み上げたものが1つのミスから崩れ落ちてしまうところだ。休憩明けに挽回しようと指した手が裏目に出て、差が広がっていく。

泉は表情を変えることもなく、ずっと冷静だった。疲労を感じさせることなく、要所で時間を使い、正確に指し続ける。午前10時に始まった対局は、午後8時21分に小山が「負けました」と告げ、終了した。

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【34歳も年上の棋士は、まさに「いぶし銀」】

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