戦争と平和の問題にさまざまな視点を与える
ナポレオン戦争後のウィーン会議(1814~1815年)から現代まで、200年の歴史を振り返りながら、戦争と平和の問題をとらえていく。カントの『永遠平和のために』をはじめ、多くの哲学者や歴史家、政治家などがこの問題を論じてきたが、これらの言説を振り返りながら、21世紀の時点であらためてこの大問題に取り組んでいる。
そこではマルクスやウィルソン、スターリン、ルーズヴェルトやブッシュなどさまざまな人物が登場するが、それぞれについて興味深く論じている。
そして国際連盟や国際連合の理念と実際の活動について詳しく検討しており、さらに世界銀行やGATT、IMFなどの機関についても具体的に見ていく。そこでは英国や米国が背後にあって、自国の利益を追求していたが、やがてその矛盾が現れてくるという。
また、20世紀の後半から英国のサッチャー首相、米国のレーガン大統領の主導によって新自由主義の政策が推し進められ、国有企業の私有化、規制緩和政策が進められたが、やがてここでもその矛盾が明らかになる。
何しろ和訳本文だけでも400ページ近い大冊で、全体として読みやすい本ではない。というのも、論点があちこちに飛ぶからだけでなく、戦争と平和の問題を論じること自体が難しい。
日本では安全保障法制が大きな政治問題になり、それはまさに本書が取り上げている戦争と平和をめぐる問題だ。今、われわれはあらためて戦争と平和の問題を正面から取り上げていくことが必要であり、それについて本書はさまざまな視点を与えてくれる。
それにしても、これから世界はどうなるのか、ということはこの本を読んでもわからない。これまた大きな問題である、ということなのだろう。
米コロンビア大学教授。歴史家。ギリシャ、バルカン半島、20世紀の欧州史などを研究。1958年英国生まれ。英オックスフォード大学、米ジョンズ・ホプキンス大学で学位を取得。著書にほかに『暗黒大陸』『サロニカ』などがあるが未翻訳。
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