蒸し返しの最大の理由は民主化、情報化の進展
講和条約や日韓、日中との国交正常化で法的に解決されたはずの戦争責任問題。近年、見直しを迫られているのはなぜか。慰安婦問題で奔走した国際法学者が、ジャーナリストの質問に答えながら、歴史認識についてわかりやすく中立的に論じる。
戦後、日本は被害国に対し賠償を含めさまざまな施策で対応してきた。問題が蒸し返される最大の理由は、個人の人権を重視する考えが世界的に強まったことにある。近年は民主化や情報化の進展で、被害者の声が大きな力を持ち、政府間合意も事後的に問題視されるようになった。当時、韓国や中国では、人権はほぼ無視されていた。
東京裁判については、「平和に対する罪」は事後法の適用で問題としつつ、日本の侵略で大量殺戮の被害を受けた中国が戦争指導者の責任を問わないということはあり得ず、欠陥はあったが「害悪の少ない悪」ととらえるべきだという。
ドイツが戦争責任に対し適切に対応したという見方が少なくないが、実は侵略戦争への反省や法的責任の認め方について日本と大差はない。ただブラント西独首相がゲットーで跪(ひざまず)き黙祷を捧げるなど、国家指導者がわかりやすい形で謝罪を行ってきたことが貢献しているという。
慰安婦問題については、多くがだまされるか強制性があったことは学問的に実証されたとしつつ、アジア女性基金など近年の日本の努力が十分に伝わっていないと嘆く。政府の広報努力不足もあるが、社会的影響力を持つメディアやNGOなどが未成熟で、絶対的正義を求めることが解決を妨げたという。
現在、国際連盟規約や不戦条約以前の植民地支配は不法行為とされていない。ただ新興国が一段の経済力を持てば、英仏に補償を求める可能性があるとの指摘には納得させられた。
大沼 保昭(おおぬま・やすあき)
明治大学法学部特任教授。東京大学名誉教授。1946年生まれ。東大法学部卒業。東大大学院法学政治学研究科教授を経る。専攻は国際法。著書に『東京裁判、戦争責任、戦後責任』『「慰安婦」問題とは何だったのか―メディア・NGO・政府の功罪』など。
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