南海トラフ地震「臨時情報」のお粗末な科学的根拠 責任が及ばないよう対策は自治体や企業に丸投げ

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「避難場所、避難経路、家族との連絡方法の再確認。それを繰り返し強く訴えたほうが効果は上がるだろう」

また、経済的損失からも目を逸らしてはいけない。政府は検証のため臨時情報の影響を受けた自治体や企業にアンケートを実施しているが、経済的影響について調査をしなかった。

不確実な情報にどこまで対策するべきか

座長の福和伸夫名古屋大学名誉教授は、その理由を「今回はまだ情報が周知されておらず、認知が進んだ次回の反応を見ないと経済損失の議論は難しい」と語る。

迷惑をかけたというネガティブ情報は出したくないのだろう。だが不確実な情報なだけにどこまで対策するべきか、非常に難しい制度だ。今後の改善のためにも経済的損失の把握は不可欠だろう。

なぜこれだけ南海トラフ地震に注目が集まるのか。1つには、政府が事前対策をするのは大規模地震防災・減災対策大綱で南海トラフ地震、首都直下地震、日本海溝・千島海溝周辺海溝型地震、中部圏・近畿圏直下地震の4つと決まっているからだ。

逆に、その4つ以外の事前対策は地方自治の範疇だ。かつて政府幹部と雑談で「地方は財政力がないし専門家も少ないのだから、4つの地震以外も国が想定を作れば的確な対策が取れるのでは」と話した際、幹部が「そこまで面倒はみられない」と突き放すように言ったことが印象に残っている。だが、4地震以外にも日本中に地震リスクがあり、実際に大きな被害が出ている。この現実に目を向けなければならない。

防災行政に対し、他のテーマと同様に批判の目を向け、監視することも忘れてはいけない。「命を守る」という大義の前に批判はしにくいものの、われわれの生活や命に直結しうる重大で、強力な権力だ。

特に日本の防災行政は縦割り行政でまとめ役がいないこともあってか、独り歩きしやすい。国策に絡む科学や利権にかかわる政治判断には特にきな臭さが漂う。疑問を感じたら調べ、問題があれば批判をする報道機関の大原則を、曲げてはいけない。

小沢 慧一 東京新聞社会部記者

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おざわ けいいち / keiichi Ozawa

2011年、中日新聞社入社。水戸支局、横浜支局、東海報道部(浜松)、名古屋社会部、東京社会部東京地検特捜部・司法担当、同部科学班を経て、現在は防災担当・東京ニュース担当など。2020年より「南海トラフ80%の内幕」の連載を開始、一連の調査報道は『南海トラフ地震の真実』として書籍化された。科学ジャーナリスト賞(2020年)、第71回菊池寛賞(23年)、新潮ドキュメント賞(24年)受賞。

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