南海トラフ地震「臨時情報」のお粗末な科学的根拠 責任が及ばないよう対策は自治体や企業に丸投げ

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だが議事録を読むと、確率の検討をする文部科学省の地震調査研究推進本部(以下、推本)の地震学者の委員たちから「科学的に問題がある」との指摘があり、採用を取りやめる方針までまとめていたことがわかった。

だがそれは確率を下げることを意味するため、特別に防災・行政の担当者を交えた会議が開かれた。防災・行政側は「税金を優先的に投入して対策を取る必要はないと思われる(思われてしまう)」「何かを動かすときはまずお金を取らないと動かない。こんなことを言われると根底から覆る」と猛反対。

採用されたのは「科学的問題がある」時間予測モデル

地震学者側からは「(低い確率を)隠してはいけない」との意見もあったが押し切られ、地震学者たちが「科学的問題がある」と訴えた時間予測モデルだけを使った確率が採用された。

議事録を調べた後、私は京都大学の橋本学名誉教授らと室津港(高知県室戸市)の水深を約300年前から記録したとされている古文書も調査した。実はこの水深のデータが、時間予測モデルによる確率の唯一の根拠だった。だが、解読を進めると、驚くべきことに水深記録は、測った日時や場所、測量方法など重大な記録が欠けていたことがわかった。

それだけではない。室津港は地震で隆起するたびに船が座礁しないよう、隆起した分、海底を掘り下げたり、浚渫したりといった工事を繰り返していたこともわかった。古文書の記録が隆起の記録でなければ、「70~80%」の根拠は根底から揺らぐのだ。

こうした南海トラフの「えこひいき」は、推本が発表している「全国地震動予測地図」に不公平を生んでいる。予測地図は確率を色別にして落とし込んだ日本地図で南海トラフ沿いばかり色が濃くなっているのがわかる。

だが予測地図の上に、1979年以降10人以上の死者を出した地震の震源地を落とし込むと、熊本地震(0~0.9%)、北海道胆振東部地震(ほぼ0%)、能登半島地震(1~3%)など、確率の低い地域ばかりで地震が起きていることがわかる。ハザードマップとしてはまったく役立っていないと言わざるを得ないだろう。

これが各地で逆に油断を生んでいる。地震保険の加入率を調べると、愛知県、徳島県、高知県など南海トラフの想定地域で高い加入率となっているが、能登半島地震の震源地となった石川県の加入率は全国平均以下だった。

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小沢 慧一 東京新聞社会部記者

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おざわ けいいち / keiichi Ozawa

2011年、中日新聞社入社。水戸支局、横浜支局、東海報道部(浜松)、名古屋社会部、東京社会部東京地検特捜部・司法担当、同部科学班を経て、現在は防災担当・東京ニュース担当など。2020年より「南海トラフ80%の内幕」の連載を開始、一連の調査報道は『南海トラフ地震の真実』として書籍化された。科学ジャーナリスト賞(2020年)、第71回菊池寛賞(23年)、新潮ドキュメント賞(24年)受賞。

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