南海トラフ地震「臨時情報」のお粗末な科学的根拠 責任が及ばないよう対策は自治体や企業に丸投げ

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臨時情報は必要性に迫られてというより、さまざまな思惑が絡み合い誕生した側面もある。制度として甘い点は多い。

まずはお粗末な科学的根拠だ。巨大地震注意の科学的根拠は、1904~2014年に実際に発生した世界の地震データだ。マグニチュード7の地震後、7日以内にM8以上の地震が起きた例は1437回中6回(約0.5%)だった。これだけだ。

しかも、これらの事例は南海トラフのような海溝型だけでなく、内陸での地震などさまざまメカニズムの地震を含んでいる。近代的な観測がされているデータも1970年代以降のものだけだ。前出の名古屋大・鷺谷教授は「この統計は南海トラフ特有の現象ではなく、大きな地震が起きやすいという、もともとあった地震学の常識を表しているに過ぎない」と語る。

ほかにも、対策やコストを自治体や企業、個人に丸投げしているため、自治体や事業者は対応に悩まされた。ビーチを閉鎖した和歌山県の白浜町では5億円の損害となり、JRでも一部運休や減速運転をした。ホテルや旅館もキャンセルが相次ぎ、花火大会も中止に。さらに水や米の買い占めも起きた。

臨時情報が、想定震源域で一定規模の地震が発生したらほぼ自動的に情報が発表されるのも、発表から1週間で専門家の検討なしに自動的に臨時情報が終了する仕組みになっているのも、自治体や企業などに経済活動の停止や継続に関して具体的な対応策を示さないのも、「国の判断通りにしたら被害を受けた」と、責任が及ばないような仕組みと言える。

監視の姿勢を忘れてはならない

とはいえ、動き出した以上、より役立つ制度にはどんな改善が必要かを検討すべきで、今回の事例は貴重な検証材料だ。

「政府のメッセージの出し方があいまいすぎて、一番国民にしてほしかった防災の確認に繋がらず、効果が低かった」と振り返るのは、東京大学大学院総合防災情報研究センター⾧の関谷直也教授だ。

関谷教授は市民アンケートから臨時情報の効果を調査。すると「地震が起きると思った」人は7割以上と、多くの人が過剰に(政府統計では0.5%なので)地震発生を信じたことになる。

問題なのは、それにもかかわらず「日頃の備えの確認」をした人がきわめて少ないことだ。家具の転倒防止や、避難場所や避難経路の確認、家族との連絡方法の確認をした人はいずれも1割以下だった。

こうした状況に関谷教授は「最低限行ってほしい対策をもっと強調して呼びかけるべきだった」と話す。地震発生直後に早急に行える対策は限られている。科学的根拠については伝えるべきだが、やたらと「社会経済活動の継続を」と呼びかけて保険をかけるのではなく、すぐにできる最低限の対策の呼びかけに絞るべきだと指摘する。

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