南海トラフ地震「臨時情報」のお粗末な科学的根拠 責任が及ばないよう対策は自治体や企業に丸投げ
熊本、北海道、石川県などは低確率だったことから地震発生前、「災害が少ない県」などと安全性をアピールし、企業誘致活動を行っていた。発生確率を公表することが低確率地域にとっては「安心情報」になっている実態があるのだ。
地震学として地震予測の研究は進めるべきだろう。しかし問題は、研究がまだ未成熟な状態で社会実装してしまっていることだ。なぜそこまで地震予測にこだわるのか。そこには地震学者・行政・防災が40年にもわたり、できる「フリ」を続けた地震予知の呪縛がある。
国家プロジェクトとなった地震予知
「駿河湾を震源としたマグニチュード8クラスの巨大地震がいつ起きても不思議ではない」──。1976年に唱えられた東海地震説をきっかけに、1978年に地震予知を前提とした大規模地震特別措置法(以下、大震法)が制定された。予知とは地震が発生する時間と場所をピンポイントで言い当てる技術だ。
大震法は観測網を張りめぐらせ東海地震の前兆現象を捉えると、総理大臣が「警戒宣言」を出し、新幹線を止めたり、学校や百貨店などを閉じたりして地震に備えるというもので、今思うとSFのような仕組みが作られた。
これにより地震予知は国家プロジェクトとなり、関係省庁、東海地震が懸念される自治体に多額の予算が下りた。地震研究も地震予知と言えば研究費が下りたといい、「打ち出の小槌のようだった」という。ここに「地震ムラ」が誕生した。
しかし、1995年の阪神・淡路大震災で予知が不可能なことが明るみに出た。東海地震にばかり注目が集まるあまり、兵庫県に大きな活断層があることが知られることはなく、「関西では地震が起きない」との油断が生まれ、被害を拡大させた。予知に対する批判が殺到し、当時の地震予知推進本部は看板を掛け替え、現在の推本が生まれた。
推本の設立には活断層の存在が伝わっていないことへの反省も含まれている。そこで生まれたのが活断層や海溝型の地震の発生確率を一覧にした予測地図だった。しかし、危険な場所を国民に伝えるという趣旨からすれば、確率で色分けまでするというのは飛躍があるのではないか。この疑問に、政府の委員を務める地震学者はこう答える。
「予知はできないのでそれに準ずるものとして確率を出した。地震学者にとって予知は夢。私も科学者として挑戦したい気持ちは正直ある」
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